髪を梳かし歯を磨きながらスマホをカツカツと叩く。

クラスのグループトークは隣のクラスのカップルが別れた話から始まり、クラスのお調子者がおすすめした動画の話題で盛り上がって、最後は流行りの漫画の話で終わっていた。

とりあえず動画のリンクを叩き2倍速で再生する。


動画を横目に鏡を覗き込む。

息が詰まるのはポロシャツのボタンを上までとめたからだ、きっと。


スカートのチャックを上げながらバタバタとキッチンに駆け込んでカゴに入っていた細長いパンをひとつ掴む。

すると玄関ドアの鍵がかちゃりと開く音がして「げ」と声を漏らす。廊下を歩いてくる音がして廊下とリビングを仕切る暖簾がスッと持ち上げられた。

中へ入ってきたパンツスーツ姿の人物と目があって顔を顰めた。


未来(みく)、まだ学校行ってなかったの!」

「今用意してるし、喋ってる時間ないから!」

「何よその口の聞き方は! もう中学生なんだから、言われなくてもちゃんとしなきゃダメでしょ! ていうか遅刻してるのに動画なんて見てるの!?」

「ああもう、うるさいなぁ! お母さんだって忘れ物したから戻ってきたんでしょ! 人のこと言えないじゃん!」


それは、と言葉を詰まらせたお母さん。眉を顰めてテーブルの上に置きっぱなしになっていたクリアファイルをいそいそと鞄にしまう。

ほぉら、と口に出すと怒られるので心の中で呟き肩にカバンをかけた。