「ん……」
夕陽が山に半分ほど身を隠した頃、冷えた空気に体を震わせたハルカの瞼が震えてゆっくりと目が開く。
そんなハルカにひとつ息を吐いた。
「やっと起きたの? あんた無防備すぎ」
あの後、何度かハルカを揺すったり叩いたり鼻を摘んだりしたけれど一向に起きる気配もなく、だからと言って流石に寝ている知り合いを置いていくのは気が引けて、隣で目覚めるのを待っていた。
まさかこんな時間まで起きてこないとは思わなかったけれど。
「あれ、おれ……」
「早く起きてよ。私あんた送らないと帰れないんだけど」
私の声に気づいたハルカがハッと顔を上げた。
目をまん丸にして私を見つめる。思わず私がたじろいだ。
「ミク……?」
「何よ」
「おれ寝てたの?」
「それはもう気持ちよさそうにすやすやと」
嫌味まじりに言ってやれば、戸惑うように視線を彷徨わせ俯いたハルカ。想像していた反応と違って次の言葉に迷ってしまう。
「待ってて、くれたの……?」
急にしおらしくなった。
何よ急に、と唇を尖らせる。
「私がいないと帰れないんでしょ」
それに私もさっきまで寝てたから、という言葉は飲み込む。何も考えずにぐっすり眠りこけたのはすごく久しぶりだった。
「ほら帰るよ」
立って葉っぱのついたお尻をはらうとハルカも体を起こす。
自転車に鍵を差し込んでスタンドを蹴った。
「あの、ミク」
名前を呼ばれた。何よ、と振り返る。
「ありがと、待っててくれて」
ハルカが少し泣きそうな顔をして笑っていたから、ちょっとだけびっくりした。
「……別に。置いて帰って死なれたら目覚め悪いし」
「そっか。ミクは優しいね」
「そういうのいいから」