「まあいいや、ミクにこれあげる。すごく綺麗だよ。そう思わない? おれはこのお花すごく好きだなぁ」
私の前に突き出された花。
ほんのりと紫色がかかったその小さな花は、一体なんという名前なんだろう。多分家に帰っても調べることはないのだろうけど。
「……どーも」
「どういたしまして」
そう言い、屈託のない笑みを浮かべ、猫のように伸びをした。
本当に猫みたいな奴だな。
「気持ちいいねぇ。あ、ゾウのカタチの雲だ。ぞうおっきくて好き」
ハルカは細い指で空を指す。
おっきくて好きってどんな理由よ。
何となく空を見上げた。青い空を鱗みたいな細かい雲がゆったりと流れていく。芽吹きたての若葉の匂いをはらんだゆるい風が芝を柔く撫でた。
こうしてゆっくり空を見上げたのはいつぶりだろうか。
探してみたけれど、ゾウの形の雲はわからなかった。
いろんな形の雲がただの雲にしか見えなくなったのはいつからだろう。いつからそれが私の当たり前になってしまったんだろう。
私も確かに昔は、そんなふうに空に動物を見つけては、「見て見て!」と誰かの袖を引っ張っていたはずなのに。
顔の前にもらったお花をかざした。
花を顔の前に寄せて深く息を吸い込んだその瞬間、誰も立ち入らない忘れられたお城のてっぺんの窓を開けたときのように、胸の隅々まで透き通った甘い空気がぶわりと胸の中に流れ混んだ。
目を見開いた。