驚いた顔をしたハルカが私を見上げる。目が合うなり「あ、ミクだ。こんにちは」と、まるで昨日も会っていたかのような調子でのほほんと笑う。
こちらが本気で怒っているのもつゆ知らず能天気なハルカに容赦なく鉄拳を落とした。
「アイタッ」
「痛くなかったら意味ないでしょうが! 話聞いてた!?」
抗議の声を上げるハルカは両手で脳天を押さえる。唇を尖らせて「聞いてたもん」と呟いたハルカにもう一度握りこぶしを見せれば肩を竦めた。
そんな姿に深い溜息をこぼしながら「何してたの」と尋ねると、阿保丸出しの顔で「高いとこ巡り」と答えた。
「自殺でもするつもり?」
「まさかぁ、ジョーダン上手いねえ。ミクは」
んふふ、と笑ったハルカの腕を引っ張り立ち上がらせる。
「ミクは何してたの?」
「……別に」
「急いだ顔してるから、お使いだ。あ、でも手ぶらだね」
あっ、と声を上げた。
慌てて自転車をとめた、というよりも投げ捨てた場所を見下ろす。自転車に外傷はなさそうだけれど、前かごに入れていたトートバッグは街路樹の土の上に放り出されていて、お財布と本が土まみれになっている。
「最悪! あれ図書館の本なのに! ハルカのせいだからね!」