キャップを深く被っていたから顔は見えなかった。
けれど男物のスラックスと革靴がチラリと見えて、やっぱりなと眉根を寄せる。
二人が気まずそうな雰囲気なのは確認せずとも分かった。
お小遣い制の私には飲食店で時間潰しができるほどの余裕もなく、逃げるようにやってきたのは近くの市営図書館だった。小説を読んだりアニメを見たりして過ごしていたけれど、十四時を過ぎたタイミングで流石に空腹が我慢できなくなり一度外に出てきた。
コンビニで何か買って公園で食べてまた戻ろう。
吹き抜ける心地よい風を感じながら自転車で突き進む。
スムーズに道を走っていると、ふと歩道橋が視界に入った。その真ん中に佇み身を乗り出す姿に二度見する。その体がぐらりと前のめりに揺れてぎょっと目を見開いた。考えるよりも先に自転車を投げ捨てる勢いで道の隅にとめて、歩道橋の階段を二段飛ばしに駆け上がる。
ここ数週間ずっと頭の片隅をちらついていたその名前を呼んだ。
「ハルカ……っ!」
私の声に気がついてこちらに振り向くのと同時にその白いシャツを思いっきり引っ張る。勢いが良すぎたのかハルカはその場に尻もちをついた。
「何やってんの!? そんなに乗り出したら落ちるでしょ!」