「おー、すごいね。すごい、すごい」
自転車の荷台に背中合わせで座って、阿保みたいに「すごい」を連呼するそいつ。
両手両足では足りないほど吐いたはずの溜息の数も、まだまだ増えていく。
「俺、二人乗りって初めてなんだ。すごいねえ、らくちん」
そいつは「あはは」と笑いながら私の背にもたれかかってきて、重みに耐えきれず自転車がぐらつく。
「ちょ、重い! ばか、揺れる!」
「だいじょうぶ。転ばない、転ばない」
どうしてこんなことに……。下手に声を掛けずにさっさと通り過ぎればよかった。
頭を抱えたくなる衝動を堪えて、代わりにとても不機嫌な顔で力任せにペダルを踏む。
街灯に照らされた薄暗い道を、重量オーバーを知らせるようにギーギーと悲鳴を上げる自転車を誤魔化しながら進んでいけば、今朝通った住宅街に出た。
「あ」
「何、やっと思い出したの? ていうか何でこんな近場で迷子になんのよ。で、思い出したの?」
「あれ、おおぐま座だ」
一気に脱力して項垂れれば、背中に寄りかかる重みが一層増して眉を吊り上げる。