首を捻りながら茶封筒を手にした。なんとなく封筒を裏返したその瞬間、喉の奥がきゅっと閉まって、咄嗟に口元を抑えた。
一角目がとんで始まる丁寧なその文字。この十数年、辛くなった時に何度も何度も見てきた。息苦しい世界をちょっとだけキラッとさせる私のための魔法。私が好きな黄色のメモに描かれた、君の文字。
【牧野遥】
宛名に書かれたその文字に、口元を抑えた手の親指と人差し指の間に熱い雫がぽたりぽたりと落ちてきた。震える唇から、小さな嗚咽が漏れる。
ぼやけた視界の先で文字がぐらぐらと揺れている。口元を押さえていた手で目頭をぬぐい、震える手でその原稿を胸に抱き額に当てる。
「完結させるのに、何年かけてんのよ馬鹿……っ」
不思議なことに、何故かその原稿から懐かしい温もりをじんわりと感じるような気がした。涙は止まることなく溢れ出すのに、自然と頬が緩んだ。
「いい事なんて何もない」そう決めつけて、全部を恨んでいた中学二年生のあの頃。苦しくて仕方なかったこの世界を手を繋いで冒険した。目を閉じれば今でも、鮮明に思い出すことができる。
勇者の剣で倒したドラゴン、星が降る夜に月を目指して船に出したこと。君が見せてくれた世界は、すべてが輝いていた。