くすくす笑いながら耳から離す。一つ息を吐いて天井を仰いだ。
幸せ、か。
リビングの机の上に置いてある瓶のことを思い出す。
中学生の頃に貯めた幸せ貯金。『辛くなったら、ひとつ取り出して読んでみる』、そう教えてもらった通りにしていたら、たくさんあったはずの貯金はもうすぐ底をつきそうなほどになっていた。
それにあの頃集めた幸せ貯金は、今の自分には眩しすぎてほんのばかし胸に刺さる。昔はあいつの見ている世界にひどく憧れていたのだけれど、やっぱりそこは私の手の届かない場所で、あの日届かなかった月のように、きっと遠いものなのだ。
必死に手を伸ばしていた頃を思い出すと、すっかり風化されたと思っていた切ない気持ちが溢れ出す。けれどそれをどうにかしようとする気持ちはもう湧き上がってこなくて、ただ自然と消えていくのを待つだけになってしまった。
息を吐きながら空を見上げると、少し胸が苦しかった。
「さっさと読んで帰ろ……」
そう呟いて一番上にあった茶封筒を開けた。原稿用紙をデスクに広げる。応募規定に沿っているのかを確認してから、タイトルと作家名に目を通す。作家名は“ヨウ”、タイトルは「未来が待ってるその先で」。
頬杖をついて目を通した。