ハルカは自慢げにノートを広げて私に差し出した。受け取って目を通すと一行目に「むかしむかし、とまではいかないちょっと最近の話。あるところに意地っ張りで強情で、夢見がちなお姫さまが住んでいました。」とだけ書かれていた。


「いや、二人の思い出を小説にしろって言ったじゃん! てかそもそも“ちょっと最近の話”って何よ!」

「大丈夫だよ、頭の中にはちゃんと入ってるし」


ふにゃりと笑ったハルカに何度目かのため息をついた。

ハルカは船を漕ぎ始め出した。風のない中、ボートはすいすいと進んでいく。遠くで水面に映る月が見えて、私は柄にもなく満面の笑みを浮かべた。


「ねえハルカ見て。もう少しで月に届くよ!」


興奮気味に身を乗り出し、水面を指さした。もうあと少しの所で月が揺れている。

そのとき、突然オールが水を切る音が止んだ。不思議に思って首を傾げながら振り返ると、ハルカは手を動かすのをやめていた。まっすぐに私を見つめるその瞳にたじろぎながら、「どうしたの」と少し首を傾げた。


「ミク、ありがとう」


突然のことに目を瞬かせる。なんだそんなことか、と頬を緩めた。


「楽しいね」

「ん」

「ワクワクだね」

「ん」

「これで、終わりだね」


一瞬息が止まった。下唇を噛んだせいで、返事ができなかった。

ハルカの顔を見ていられなくて俯いた。