鳥が飛び立つ音も、虫の鳴き声も聞こえないくらいとても静かな夜だった。

ハルカが動かしているオールの水を切る音だけが、辺り一面に響く。


「ねえ、ミク。月が映るところまで行ってみようか」


ワクワクした顔のハルカに呆れつつ、私は笑って頷いた。

疲れたら漕ぐのを順番交代して、お互いに水をかけあってふざけて、ボートを揺らしてハルカを驚かせて。そして月まであと少しのところで、二人とも疲れてボートに寝っ転がった。空を見上げる。

星空博士の星座講座が始まって、聞いたことのない星座を次々と指差していく。見える星を全部指差したくらいのところで、ハルカがヨッと体を起こしてボートが少しだけ揺れた。持ってきたリュックをゴソゴソと漁っている音がする。


「ミク、これ。プレゼント」


そんな言葉と共に、顔の前に透明の瓶が差し出された。中には四つ折りになった黄色いメモがいくつか入っている。受け取りながら体を起こした。


「これ、何?」

「いくつか見てみて」


ワクワクした顔のハルカにそう促されて瓶の蓋をキュッと開ける。四つ折りを二つ取り出して膝の上で広げた。

『にくきゅうの看板と白にゃんこくん』
『勇者の木剣と賢者のやつで盾、ドラゴンがいる公園』

一角目がとんから始まる丁寧な字で書かれていたのは、今日二人で見た景色。冒険してきた二人の道のりだった。


「これ……もしかして、幸せ貯金?」

「うん。冒険を始めてからずっと集めてたんだ。最後にミクへサプライズで渡そうと思って。見えないように意地悪してごめんね」


もう一度メモに目を落とす。私が好きな黄色の折り紙だ。

ハルカがやたら私に隠れて何かを書いていたのは、そういうことだったんだ。


「……小説、書いてたんじゃなかったの?」

「そっちも書いてたよ」