ビシッと指差した先のボートは明らかに長い間放置されていたであろうもので、土埃と苔にまみれていてまともに進むとは思えなかった。
試しに足で突いてみる。それだけでぎゅおおと恐ろしい音を立てたボートにゴクリと息を飲んだ。
「最後の冒険へシュッパツだ」
むふふ、と楽しげに笑ったハルカは、船着き場に無造作に置き去りにされたオールを手に取った。
「絶対に嫌だから!」と声を上げる。そんな私なんてお構いなしにハルカはボートに歩み寄る。そしてボートに乗り込もうと足をついたその瞬間、ボートが激しく左右に揺れて、思わず私が悲鳴をあげた。
「無理だって! 流石に無理!」
「だよね、今にも沈みそう」
そう言いつつ、ハルカは続けざまに「ほら、おいで」と私に手を差し出した。
顔を引き攣らせてハルカとボートを見比べる。しばらくの沈黙の後、肺の空気を全部吐き出して差し出されたその手をぎゅっと握った。