幼い子供に言い聞かせるように、腰に手を当て人差し指を立てたそいつ。

すっかりこいつのペースに飲まれている自分に気が付く。しかも助けてやったにも関わらず、感謝ではなくて説教をされている。

もう怒る気になれず、なんだか風船から空気が抜けていくように、シューっと体の力が抜ける。


「それでね、三角公園ってどこかわかる?」


また「は?」と顔を顰めると、そいつは「三角公園だよ。結構大きな公園なんだけど」と繰り返す。


「三角公園って。あんたの家の近くのアレでしょ?」


今朝通った錆びた時計台のある公園を思い浮かべながら答えると、そいつは「おれの家、知ってるの?」と間抜けな顔を浮かべる。


「……別に。知ってるっていうか。昼間にあんたが出窓に座ってたのを見たの。ていうか今朝、目合ったじゃん」


へらっと笑ったそいつに何度目かの脱力。

ずり落ちたスクールバックを肩にかけ直しながら、これまた今日で何度目かの深い溜息を吐く。


「おれの家知ってるなら、そこまで連れて行ってほしいな。じつはおれ、今迷子なんだ」

「はぁ? 迷子?」


顔を歪めて繰り返す。今いる駅前の本屋から三角公園まで十分とかからない距離なのに、どうやったら迷子になれるんだ。

「よし行こう」と私の腕をつかむと、迷子のくせにスタスタと歩き始める。


「ちょ、私チャリあるから! ていうか三角公園の方向そっちじゃないから!」

「そうなの? じゃあここで待ってるね」