「ミクのえっち!」

「はぁ!? 何よそれ! 減るもんじゃないでしょ!」


それでも見せないよ〜、とくふくふ笑ったハルカは逃げるように自転車の荷台に駆け出した。

さっきからハルカは自転車を降りて何かを見つけるたびにこうして隠れて何かをしている。ペンを出しているのが何度か見えたので、おそらく私が提案した小説を書いているんだろうけど、絶対に私には見せてくれなかった。

私が提案したんだから、私にも見る権利はあるはずなのに。

ちょっとつまらないけど、ハルカが楽しそうだからまぁよしとしよう。

「ミク早く」と私を呼ぶ声に「今行くから」と手を振った。



夕日が沈んで月が昇った。今日は三日月だ。妖精が椅子にして座っていそうな細い三日月に、その周りを星が瞬く。

ハルカの下手くそな鼻歌に合わせて私も歌う。ずんずんと進む足取りは軽くて、今ならどこまでも歩いて行ける気がした。


「あ、見てよミク。勇者の剣だ」


唐突にそう言ってしゃがみ込んだハルカは、足元に落ちていた変な形の木の枝を拾う。

少し前の私なら「枝じゃん」と冷めた目で返事をしていただろう。

くく、と笑ってから、私も足元のヤツデを拾った。


「じゃあ、こっちは賢者の盾」


おおお、と目を丸くして感嘆の声をあげたハルカ。
すると、突然辺りをきょろきょろと見回し始め、何かに気が付いたようなそぶりを見せる。悪戯を閃いた少年のように、にいー、と悪い笑みを浮かべた。