鳴き声まで可愛くなかった。でも一応猫らしい。
「何このデブ猫」
ハルカの横に立って笑いながらそう言えば、猫は鋭い目つきでこちらを睨んでくると、「フンッ」とでもいうかのようにわたしから顔を反らす。そして一つ大きな欠伸を零すと、ハルカの足元に歩み寄って、小さく丸まって眠り始めた。
「可愛いねえ、にゃんこ君」
猫の顎の下を擽りながら、ハルカは目を弓なりにした。そんな表情にふっと肩の力が抜ける。
私は隣りに腰下ろし、眠るデブ猫をじっと見つめる。耳がぴくぴくと動いているから、きっと狸寝入りだ。猫のくせに。
恐る恐る慎重に手を伸ばせば、猫が半目でこちらの様子を窺ってきた。優しく背中を撫でてみる。猫は迷惑そうな顔をしたが、少し身じろぎしてまた目を閉じた。
「ね、可愛いでしょ」
「まあ」
「よかったね、にゃんこ君。ミクが可愛いって褒めてくれたよ」
「褒めてはない」
ハルカの声に答えるかのように、ブナァン、としゃがれた声で鳴いた猫。のっそりと起き上がると、一つ大きな伸びをする。そして私とハルカの顔を交互に見上げると、大きなお尻をフリフリしながら振り返ることなく去って行った。
その後ろ姿を見送ってから、ハルカはパッと私に背を向けてゴソゴソと身じろぐ。
「ねぇハルカ、ちょっとくらいそれ読ませてよ」
そう言いながらハルカの背中に歩み寄って手元を覗き込もうとすると、ハルカはパッと手元を隠して縮こまる。