ハルカ、と名前を呼んでみたけど、声にはなっていなかった。伸ばした手が宙をつかむ。ハルカが遠い。

キュッと唇を結んだその時、ハルカは洋服箪笥に向かって走り出した。勢いよく扉を開けると、中から茶色いリュックを取り出した。ゴソゴソと何かを詰め込んだハルカはリュックを背負って振り返る。


「お待たせ、ミク。さあ、冒険にシュッパツだ」


ハルカが笑った。いつもみたいに朗らかに、ふにゃりと笑った。

カァッと目尻が熱くなって、咄嗟に両手で顔を隠す。

ばか、ばかハルカ、わかりにくい態度とんなし。勘違いしたじゃん、すごく怖かったじゃん。

ハルカは「えいえいおー」と右手の握りこぶしを天井に突き上げた。


「ほら、ミクも」


ハルカがそばに駆け寄ってきてそう促す。

ずっと鼻を啜った。


「……オー」


棒読みで、ちょっとだけ拳を突き出す。ハルカは嬉しそうに笑うと、私の手を握った。