「ミ、ミク。苦しい……」
自分の下からそんな声がしてハッと我に返る。ハルカを下敷きにしていたらしい。「うわっ、ごめん!」と慌てて飛び降りた。
床にぶつけた後頭部をさすりながら困惑した顔で「なんで……」と呟く。
だから私は、姿勢を正して笑顔でハルカに手を差し伸ばした。
「ねぇハルカ、私と冒険に行こう」
ハルカが目を丸くした。
私はハルカの手首を掴んで、出窓にずんずんと歩み寄る。
窓によじ登ってカーテンをつかむ。ほら、と振り返ってハルカに手を差し出した。
「私とハルカがちゃんと同じ時間を走っていたって証拠を残すの」
ハルカが私を見上げている。瞳が揺れる。
「『俺はこの道を通ってきたんだ』って。『ミクと二人で歩いてきた道だ』って何かに残すの。『グリム童話』のヘンゼルとグレーテルの話にも出てくるじゃん。石とかパンを通ってきた道に落としていくやつ。そんな感じ」
「……石とかパン? 何言ってるのミク。領主のジル・ド・レが少年少女にひどいことをする話でしょ?」
「……あんたまさか、原作しか読んだことないの?」
頷いたハルカに大きなため息を吐いた。
それから簡単に『ヘンゼルとグレーテル』のあらすじを教えた後、話を戻す。
「ひとりぼっちになった時に、私と過ごした思い出があれば怖くないでしょ? 不安になった時、ちゃんと何かが残っていたら、一人じゃないって思えるでしょ? だから、ハルカは小説を書けばいい!」