「……おれ、嬉しかったんだ。ミクが自転車の後ろに乗せてくれている間は、同じ時間を進んでいる気持ちになれたから。その間はおれ、一人ぼっちゃじゃないって思えたんだ」
ハルカの声が震えている。
「でも、もう終わりなんだね。おれ、また一人ぼっちになっちゃうね。寂しいな。寂しいなぁ……」
私は何をすればいいんだろう。何を言えばいい? ハルカになんて声をかけてあげれば、ハルカは泣き止んでくれる?
一人じゃないとか、一緒にいるよとか、多分そんな言葉はこれまでたくさん受け取ってきたはずだ。それでもハルカは今もこうして孤独の中にいる。孤独の中に取り残されたハルカを引っ張り出すにはどうしたらいいんだろう。
結局言葉は見つからずに、ハルカはずっと押し殺すように泣いていた。私はハルカの頭を抱きしめることしか出来なかった。
外の景色が赤くなり始めて、私たちは手をつないだままレースのカーテンを潜り、出窓に座って外を眺めた。
いつの間にか日は傾いていて、空の端が黄、オレンジ、赤、そして徐々に藍色に染まっていく。東の空はもう夜が始まっていて、一番星が輝いていた。
ハルカの顔が夕日に照らされ赤くなっていた。
「前にも言ったけど、私はハルカの見ている世界が羨ましいよ」
外を眺めながら呟くようにそう言った。握る手に力を籠める。
「おれの見ている世界は、ミクが見ている世界と何にも変わらないよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「……そうだといいな」
私たちを赤く照らす夕陽が、向かいの家のさらに奥へと沈んでいく。
夕暮れが終わる頃、頬の火照った熱とほんの少しの切なさだけが最後まで残っていた。