『目が覚めた時、植えたばかりだった種が花を咲かせて、冷たかった風が暖かくなっていて、街の匂いが変わっていて。見たかった映画が公開されていて、新しいお店ができていて、新しい道ができていて。起きて一番に窓から世界を見下ろすたびに、新しくなった景色にすっごくワクワクするんだ』

ハルカはそう言ってたじゃん。変わった景色を見ることが好きなんだって。ハルカはこの世界を楽しんでいたんじゃないの? ワクワクドキドキしていたんじゃないの?


「ああ、また窓のお花枯れてる。風も冷たいね、夏が終わったんだね。またおれだけ、ここに残されたんだね」


ああ、そうか。そうなんだ。そういうことなんだ。

植えたばかりの種が花を咲かせるなら、咲いていた花が枯れることだってある。見たかった映画が公開されていたなら、見たかった映画が終わっていることもある。

好きなお店が潰れて、よく通った道が工事されて、窓から世界を見下ろすたびに絶望してしまうことだってあるんだ。

「もう、もうやだ、つらい、寂しい……っ。どうしておれはこんななの? みんなおれを置いて先に行っちゃう。置いて行かないで、おれはまだここにいるよ!」


出会って初めてハルカの本音を、心の叫びを聞いた気がした。

ハルカは私とは違うと思っていた。だから羨ましいとさえ思っていた。でもそうじゃなかった。ハルカも私と同じだった。いいや、私以上に途方もない孤独を抱えていたんだ。