あがり性で褒められるとすぐに顔を赤くしてしまうところとか、とても繊細で人の心に寄り添ってくれるけど自分を前面に出さないところとか、歳はずいぶんと離れているから失礼極まりないんだけど、マスターらしからぬ可愛さがあるというか癒やされるのだ。

その須崎さんのサ店へ通ううちに、団地の住民とも仲良くなってきた。みんないろんなものを抱えて生きてきて、一杯のコーヒーを癒やしにしながら日々を生きていく、そんな柘植の木団地での生活を居心地良く出来たらという思いが、俺の中に湧いてきた。
古いものを壊して新しいものを作ったり利便性だけを追い求めたりするだけじゃない、心の快適さみたいなものを大切にするのが、再生なんじゃないだろうか、と。
そんな風に思うようになったのは、須崎さんのたたずまいと、そう多くはない口数の中から心に響いてくる言葉、その指先から作り出される、相手のことを思って淹れられたコーヒー。それらのおかげだ。
いつの間にか俺は、再生課での仕事が好きになっていた。もう少し続けてみたいし、再開発に携わるよりは柘植の木団地の居心地を良くすることを中心に考えたい。

親父からの電話は、そろそろ戻って大川組に入社しろという件だと思うのだけど、むしろちょうど良い。俺からは、「もう少し津下市役所で働きたい」と言うつもりで、実家への道のりを辿っているところだ。

「おかえり航平。お父さん、居間で待ってるわよ」
「ただいま。分かった、母さんこれお土産。家の分と会社の分」
「あらありがとう。明日会社の皆さんにも配っておくわね」
 着ていたコートを脱ぎ、玄関のコート掛けに掛けると、居間に直接繋がるドアを開けた。

「親父、ただいま」
「おう。呼び出して悪かったな。仕事、忙しかったんだって?」
「まあね。大きい案件が一段落したよ」
「ゆっくりしていけるのか」
「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど、チームのメンバーが一人ダウンしちゃって。明日戻るよ」
「そうか」

 普段元気のかたまりみたいな森本さんが、風邪を引いて仕事を休んでいる。森本さんは俺の先輩で、当然ながら俺よりも抱えている案件が多い。
疲れていたところに加えて、アイファンの限定グッズを販売している通販サイトに深夜0時からアクセス待機していて、ようやくアクセス出来たのが深夜3時。欲しかったグッズが買えたとかでほっとしたのもあって、ダウンしてしまったらしい。
「私としたことが何たる不覚……。再生君、たまの帰省だというのに、まことにかたじけない」
「お互い様なんで大丈夫です、俺も一泊は出来ますし。ところで再生君て言うのやめて下さい」