須崎さんと大迫さん。何かお互いに言いたいことがあるんじゃないのか。もし、言いたいことがあるなら。すっきりして仲直りすれば良いのに。これも何かの縁なんだから。
 アイスコーヒーをがぶ飲みしながらそんなことを思う俺も、すっかりサ店の常連だな。
 窓の外は雲が取れて、どんどん気温が高くなっているようだ。俺は眩しさに目を細めた。

「じゃあ協賛企業さんの集計は、再生課の方でやりますね」
「よろしくお願いね」
「こちらこそ屋台の運営、お願いします」
「そうだ、柘植の木音頭の踊り手さんで、恒子さんが足首ひねっちゃってね。代わりの人探してるのよ。市役所の子でだれかいない?」
「あ、私踊れます」
「森本さんが!?」
「市役所勤務になった頃、恒子さんに教わりましたので」
「頼むわぁ森本さん」
「お任せ下さい」
 夏祭りの打ち合わせは佳境に入っている。夏の最後の土日。夏祭り自体、開催するところが少ないようで、見させてもらいたいという自治体からの問い合わせもちらほら入っていた。
 っていうか森本さんのキャパすげぇな。盆踊りも踊れるのかい。
「津下市役所職員たるもの、柘植の木音頭スキルは必須ですよ、再生君」
 銀縁の眼鏡の奥がきらりと光る。

 数回目の打ち合わせを終えて、森本さんと俺はちょっとサ店に寄って行こうということになった。

 須崎さんもアイスコーヒーや冷たいドリンク提供で夏祭りに参加してくれることになっている。
 前島さんは「こんにゃく煮るわよ!」と言ってくれているし、元その筋の住民の方が、焼きそばの係を買って出てくれた。福留さんは福祉サービスの人と一緒に顔を出すと言ってくれていて、会えるのが楽しみだ。
 高齢者が多い団地のため、アルコールは一店舗のみ。缶ビールを冷水で冷やして雰囲気を出すことにした。その代わり、スーパーの人が「お祭りらしいかと思って」とラムネを仕入れてくれていて、たしかに祭りを懐かしむ高齢者や、遊びに来てくれる子どもにはそっちの方がテンションが上がりそうだ。
 なし崩しに開催しなくなってから使われなくなっていた機材やテントを組み立てて公園に設置したら、本格的に夏祭りらしくなってきた。
 当日俺は、運営に問題がないかを確認しながら巡回する係だ。何もトラブルがなく進めばいいなと思っている。

「こんにちはー」
 冷房のゆるく効いた店内には、例の大迫さんがいつもの席でコーヒーを飲み、前島さんが荷物を持って立ち上がるところだった。
「あら再生課さんたちじゃないの。残念、お喋りしたかったわぁ」
「前島さんのこんにゃく、楽しみにしています」