須崎さんの過去のしがらみを聞いて、なるほどと納得した。二人とも、この団地に新しい居場所を求めていたのか。
 新しいものへと変化しようとしている街。それは古いものから逃げてきた二人にとってはちょうどいい場所だったのかもしれない。

 俺は福留さんと須崎さんが話していた時に感じた、引っ掛かるような思いにもう一度思いを馳せた。
 再生って何も道路や家を新しく作り替えるだけではなく、今まで住んできた人や新しく住む人の気持ちもリスタートさせる仕事なのか……も?

 俺らしくないな、とその考えを打ち消そうとしてこっそり須崎さんの顔色を伺うと、須崎さんは、「すみません、長々と」と俺に恐縮して謝った。
 
「いえ、話して下さってありがとうございます。福留さんにどうやってアプローチしていけば良いか、ヒントになりそうです。福祉課にも話してみます」
 俺がそう答えると、須崎さんはほっとした表情を見せた。

 サ店を出ると、外はだいぶ暗くなっていた。職場に戻って日報を書いたら今日は終わりにしよう。林さんとの打ち合わせはまた明日だ。

 古いしがらみに埋もれてしまった人の思いを汲み取り、手を差し伸べる仕事。
 柘植の木団地再生課の仕事は、俺にとってどういう意味を持つんだろう。
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「おーい、大川君。大川君?」
「あ、はい」
「エレベーター、閉まっちゃうわよぅ」
「あっすいません」

 一年前の「福留さん事件簿」を思い返しながら歩いていた俺は、林さんに急かされ、慌ててエレベーターに乗った。
 林さんと俺を乗せたエレベーターは、ガコッという少し不安な音をさせてから、福留さんの住む四階へと昇り始める。機械関連はそう簡単にリニューアル工事というわけにもいかず、もうしばらくこのままだろう。

 須崎さんの取り計らいがきっかけで福留さんとの接点をゲットした俺は、あの後課長や森本さん、林さんからおおいに褒められた。そんなわけで、福留さんに関してはこうやって今も俺が繋ぎ役になっているのだ。

 いまだに福留さんはサービスを受けることを躊躇してはいるが、サ店に顔を出しては他の住民と会話することも増えたらしい。その流れで俺もサ店に入り浸るようになり、常連認定された。
 サ店のあれこれを教わった前島さんからは、
「どうやってあの頑固な福留のおじいちゃんと仲良くなったの? 再生くんなんて呼ばれちゃって」
 なんてぐいぐい来られて困った。個人情報は俺の口からは教えられないからな。
 
「おう、再生くんも来たのか」