お兄ちゃんとのデート……もとい、お買い物。
それはそれは私にとって幸せの時間だった。
人生の最高潮と言っても過言ではないくらい。
だから油断してたんだと思う。
きっとあの時だ。
あの写真を撮られたのは。
「あうう……。お兄ちゃん、ごめんなさい」
「あははは。なんで、葵が謝るのさ」
「だって、こんなに服買ってもらちゃって……」
「いいの。俺からのプレゼントなんだから」
「でも……」
お兄ちゃんの両手には服が入った紙袋が。
一枚、数万円の服なんて、買ったことないどころか袖を通したこともなかったのに。
「葵が可愛いと、俺も嬉しいんだ。だから、葵に似合う服があればそりゃ買うよ」
お兄ちゃんが嬉しそうに笑う。
うう……。なんて素敵な笑顔。
鼻血出そうだよ。
ポタ。
出てた。
「あ、お兄ちゃん、ちょっと休も! 俺にここは奢らせて」
そう言って、ファミレスを指差す。
そして、私たちはファミレスに入っていった。
鼻血を誤魔化すために。
「ふう、少し暑いね」
席に座ったお兄ちゃんは帽子をとる。
そりゃ、暑いよね。
お兄ちゃんには服を買ってもらっただけでなく、荷物まで持ってもらってたことに気づいた。
もう、そういうところを自然にやるの、ホント反則だよ。
ドンドン、お兄ちゃんが私の理想の男に近づいていく。
そして、世間の男の子たちはその理想から遠ざかっていってると思う。
はあ……。
どんだけ、私の中の男の人のハードルが上がってるんだろ。
もう、お嫁に行ける気がしない。
ウェイトレスさんにアイスコーヒーとオレンジジュースを注文する。
すると10分もしないうちに飲み物が運ばれた。
飲み物を飲むためにはマスクを外さなければならない。
お兄ちゃんはマスクをポケットに入れてから飲み物を飲んだ。
そして、そのまま店を出てしまった。
最悪なことに、帽子は店の椅子の上に忘れて。
外は日が沈みかかっていて、西日が眩しかった。
「うわ、眩しっ!」
思わず、私がそう言うとお兄ちゃんがにこりと微笑み、サングラスを外す。
「ほら、これで眩しくないだろ?」
そう言って私にサングラスをかけてくれた。
その優しさがすごく嬉しくて、思わず涙ぐんでしまう。
「それじゃ、帰ろうか」
「うん!」
テンションが上がってしまった私はお兄ちゃんの腕に抱き着いてしまったのだった。
「あー! 今日はホント、楽しかったぁ! お兄ちゃん、優しかったし、最高の一日だったなぁ。忘れらない一日だったよ」
ベッドに寝転がり、今日の嬉しさを噛みしめる。
ライブなんて比じゃない。
本当に幸せな時間だった。
「っと。いけないいけない。掲示板のチェックはちゃんとしないとね」
起き上がり、パソコンを立ち上げて、掲示板のサイトを開く。
「……え? 何これ?」
『今日、町でケモメンの圭吾見た』
『マジ?』
『しかも、女の子と一緒に歩いてた』
『うっそ!』
『証拠の画像』
掲示板にはスマホから撮られた写真が貼られていた。
完全にお兄ちゃんと私だ。
腕を組んでいるときの写真。
お兄ちゃんは完全に素顔をさらしていて、私はサングラスをした状態だ。
よかった。
これなら私の身バレは大丈夫そう……じゃなくて!
『まさか、隣にいるの彼女?』
『それは許されないよ!』
『私、明日、この写真持って事務所に凸してくる』
『それより、SNSに流した方がよくない?』
『隠れて彼女と付き合うなんて、裏切りだよ!』
ヤパイヤパイヤパイヤバイ!
なんとか、切り抜けないと
「待って。まだ彼女と決まったわけじゃなくない?」
私はすぐにそう掲示板に文字を書き込んだ。
『確かに』
『それより、SNSに流した方がよくない?』
『SNSに流すのは事務所に凸してからでも遅くないかもね』
そこから色々と議論が繰り広げられたが、なんとか事務所に確認が取れるまではSNSに流れることはなさそうだ。
この掲示板にはコアなファンしかいなくて助かった。
基本的にはケモメンの味方なのだ。
ただ、時間が稼いだが、どうしよう……。
私は今日、お兄ちゃんに買ってもらった服を見ながら、絶望に包まれたのだった。
夜は全く眠れなかった。
どうしよう?
それだけが頭の中をグルグルと回っていく。
もし、あの写真がSNSに流されれば、お兄ちゃんはきっとケモメンを外される。
アイドルとしても終わりだろう。
私のせいで、お兄ちゃんがアイドルじゃなくなる。
……そんなのは嫌だ。
そして、朝になったとき、私はある決心をした。
「……とにかく、大騒ぎになる前に事務所に説明しないと」
私はすぐに着替えて、ケモメンが所属する事務所へと向かった。
オフィスの中にある一室。
フカフカのソファーに座って、私は震える膝を抑えながら待っていると、ガチャリとドアが開く。
「待たせたわね」
事務所の社長である楠木麗香さんだ。
私の正面のソファーに座る。
綺麗な赤みのかかった艶のある長い黒髪。
社長自身がまるでモデルかのようなプロポーション。
そして、わずか34歳で事務所の社長に上り詰めるほどの経営手腕。
まさに私と正反対のような人だ。
「……いえ。こちらこそ、急に来てしまってすみません」
「……圭吾の妹さんだって?」
「はい。義理の、ですが」
「それで、お話って?」
「この掲示板のことなんですけど」
私はスマホから掲示板にログインして、それを麗香さんに見せる。
「このサイトは?」
「ケモノメンズのファンクラブが秘密で情報をやり取りするための掲示板です」
「じゃあ、オープンな情報……認知度が高いってわけじゃないのね?」
「はい。このサイトを知ってるのはごく限られたファンだけです」
「それなら、この写真はまだ表に出ていないってことね」
「はい。なので、この隣にいるのは私……妹だと説明してくれませんか?」
「それは得策じゃないわね」
少し難しそうな顔をする麗香さん。
なんだろう。
女の私から見ても、色っぽい人だ。
悩む顔にも、つい、ドキッとしてしまう。
これが大人の女の人の魅力なんだろうか。
「それだと圭吾の情報を出すということになるわ。そうなれば、あなたがいくら妹でも、血が繋がっていないということもバレてしまう」
確かにそれは私も引っかかるところだ。
いくら妹とは言え、血が繋がっていない女の子と一つ屋根の下で暮らしてるなんて大スキャンダルだ。
「じゃあ、どうすれば……」
私がそう言うと、麗香さんがジッと私の顔を見る。
そして、綺麗な艶のある唇を開いてこう言った。
「あなた、マネージャーにならない?」
それはそれは私にとって幸せの時間だった。
人生の最高潮と言っても過言ではないくらい。
だから油断してたんだと思う。
きっとあの時だ。
あの写真を撮られたのは。
「あうう……。お兄ちゃん、ごめんなさい」
「あははは。なんで、葵が謝るのさ」
「だって、こんなに服買ってもらちゃって……」
「いいの。俺からのプレゼントなんだから」
「でも……」
お兄ちゃんの両手には服が入った紙袋が。
一枚、数万円の服なんて、買ったことないどころか袖を通したこともなかったのに。
「葵が可愛いと、俺も嬉しいんだ。だから、葵に似合う服があればそりゃ買うよ」
お兄ちゃんが嬉しそうに笑う。
うう……。なんて素敵な笑顔。
鼻血出そうだよ。
ポタ。
出てた。
「あ、お兄ちゃん、ちょっと休も! 俺にここは奢らせて」
そう言って、ファミレスを指差す。
そして、私たちはファミレスに入っていった。
鼻血を誤魔化すために。
「ふう、少し暑いね」
席に座ったお兄ちゃんは帽子をとる。
そりゃ、暑いよね。
お兄ちゃんには服を買ってもらっただけでなく、荷物まで持ってもらってたことに気づいた。
もう、そういうところを自然にやるの、ホント反則だよ。
ドンドン、お兄ちゃんが私の理想の男に近づいていく。
そして、世間の男の子たちはその理想から遠ざかっていってると思う。
はあ……。
どんだけ、私の中の男の人のハードルが上がってるんだろ。
もう、お嫁に行ける気がしない。
ウェイトレスさんにアイスコーヒーとオレンジジュースを注文する。
すると10分もしないうちに飲み物が運ばれた。
飲み物を飲むためにはマスクを外さなければならない。
お兄ちゃんはマスクをポケットに入れてから飲み物を飲んだ。
そして、そのまま店を出てしまった。
最悪なことに、帽子は店の椅子の上に忘れて。
外は日が沈みかかっていて、西日が眩しかった。
「うわ、眩しっ!」
思わず、私がそう言うとお兄ちゃんがにこりと微笑み、サングラスを外す。
「ほら、これで眩しくないだろ?」
そう言って私にサングラスをかけてくれた。
その優しさがすごく嬉しくて、思わず涙ぐんでしまう。
「それじゃ、帰ろうか」
「うん!」
テンションが上がってしまった私はお兄ちゃんの腕に抱き着いてしまったのだった。
「あー! 今日はホント、楽しかったぁ! お兄ちゃん、優しかったし、最高の一日だったなぁ。忘れらない一日だったよ」
ベッドに寝転がり、今日の嬉しさを噛みしめる。
ライブなんて比じゃない。
本当に幸せな時間だった。
「っと。いけないいけない。掲示板のチェックはちゃんとしないとね」
起き上がり、パソコンを立ち上げて、掲示板のサイトを開く。
「……え? 何これ?」
『今日、町でケモメンの圭吾見た』
『マジ?』
『しかも、女の子と一緒に歩いてた』
『うっそ!』
『証拠の画像』
掲示板にはスマホから撮られた写真が貼られていた。
完全にお兄ちゃんと私だ。
腕を組んでいるときの写真。
お兄ちゃんは完全に素顔をさらしていて、私はサングラスをした状態だ。
よかった。
これなら私の身バレは大丈夫そう……じゃなくて!
『まさか、隣にいるの彼女?』
『それは許されないよ!』
『私、明日、この写真持って事務所に凸してくる』
『それより、SNSに流した方がよくない?』
『隠れて彼女と付き合うなんて、裏切りだよ!』
ヤパイヤパイヤパイヤバイ!
なんとか、切り抜けないと
「待って。まだ彼女と決まったわけじゃなくない?」
私はすぐにそう掲示板に文字を書き込んだ。
『確かに』
『それより、SNSに流した方がよくない?』
『SNSに流すのは事務所に凸してからでも遅くないかもね』
そこから色々と議論が繰り広げられたが、なんとか事務所に確認が取れるまではSNSに流れることはなさそうだ。
この掲示板にはコアなファンしかいなくて助かった。
基本的にはケモメンの味方なのだ。
ただ、時間が稼いだが、どうしよう……。
私は今日、お兄ちゃんに買ってもらった服を見ながら、絶望に包まれたのだった。
夜は全く眠れなかった。
どうしよう?
それだけが頭の中をグルグルと回っていく。
もし、あの写真がSNSに流されれば、お兄ちゃんはきっとケモメンを外される。
アイドルとしても終わりだろう。
私のせいで、お兄ちゃんがアイドルじゃなくなる。
……そんなのは嫌だ。
そして、朝になったとき、私はある決心をした。
「……とにかく、大騒ぎになる前に事務所に説明しないと」
私はすぐに着替えて、ケモメンが所属する事務所へと向かった。
オフィスの中にある一室。
フカフカのソファーに座って、私は震える膝を抑えながら待っていると、ガチャリとドアが開く。
「待たせたわね」
事務所の社長である楠木麗香さんだ。
私の正面のソファーに座る。
綺麗な赤みのかかった艶のある長い黒髪。
社長自身がまるでモデルかのようなプロポーション。
そして、わずか34歳で事務所の社長に上り詰めるほどの経営手腕。
まさに私と正反対のような人だ。
「……いえ。こちらこそ、急に来てしまってすみません」
「……圭吾の妹さんだって?」
「はい。義理の、ですが」
「それで、お話って?」
「この掲示板のことなんですけど」
私はスマホから掲示板にログインして、それを麗香さんに見せる。
「このサイトは?」
「ケモノメンズのファンクラブが秘密で情報をやり取りするための掲示板です」
「じゃあ、オープンな情報……認知度が高いってわけじゃないのね?」
「はい。このサイトを知ってるのはごく限られたファンだけです」
「それなら、この写真はまだ表に出ていないってことね」
「はい。なので、この隣にいるのは私……妹だと説明してくれませんか?」
「それは得策じゃないわね」
少し難しそうな顔をする麗香さん。
なんだろう。
女の私から見ても、色っぽい人だ。
悩む顔にも、つい、ドキッとしてしまう。
これが大人の女の人の魅力なんだろうか。
「それだと圭吾の情報を出すということになるわ。そうなれば、あなたがいくら妹でも、血が繋がっていないということもバレてしまう」
確かにそれは私も引っかかるところだ。
いくら妹とは言え、血が繋がっていない女の子と一つ屋根の下で暮らしてるなんて大スキャンダルだ。
「じゃあ、どうすれば……」
私がそう言うと、麗香さんがジッと私の顔を見る。
そして、綺麗な艶のある唇を開いてこう言った。
「あなた、マネージャーにならない?」