初日からてきぱきと動いていた薫であったが、何日もアルバイトをしていると成幸が求めていることも理解できるようになり、雑用係であったはずが助手のような存在になっていた。
カットが終わりそうになるとカラーのための道具を用意したり、言わずとも動く薫を成幸は大層気に入っていた。
そんなある日、成幸は二人におつかいを頼んだ。
「これ」
成幸は二人に鋏を一本差し出す。
成幸が普段仕事で使っているような、美容師が持つ鋏だ。
「駅前の美容室があるだろう、ヘアーソラってところが」
HairSola。
祐介は駅前にある、キタハシ美容室の倍以上の規模の美容室を思い出した。
美容室、というよりはサロンと呼ぶべき外観と内装。
洒落た店内は若者に人気があり、美容師も若者ばかり。テレビでも紹介されるような、人気の美容室だ。
「そこの店長とこの間会った時、これを忘れて行ってな。今から渡しに行ってくれ」
「えー」
「鋏は美容師の命なんだぞ」
「その命を忘れていく美容師がいるのか」
「とにかく頼んだからな」
祐介は文句を垂れながら、薫と二人で外に出た。
今回は忘れずに帽子を被り、駅までの道のりを重い足取りで歩く。
隣を歩く祐介は乗り気ではない。
そう気づいた薫は、その理由を訊ねた。
「俺、あの美容室好きじゃないんだよ」
その言葉は薫にとって意外なものだった。
目を見開いたまま、無意識に「意外だ……」と本音がぽろりとこぼれた。
慌てて口元を押さえるが、祐介はその本音を不快に思うことなく続ける。
「無駄に豪華で目が痛い。落ち着かない」
「ぼ、僕も、流行りの美容室は好きじゃなくて。洒落た店ってガラス張りになっているところが多いから人に見られるし、僕とは正反対の性格をした美容師さんが話しかけてくるし、耐えられないんだ」
「だから美容室行かずにあんな髪だったのか?」
「う、うん」
キタハシ美容室はそういう客にも需要がある。
規模や外観から高齢女性の客が多いと思われがちだが、意外と年齢層は幅広い。十代、二十代、三十代の男女も来店する。
理由は薫同様、洒落た美容室に行くのが嫌だから、である。
キタハシ美容室はガラス張りではないため、外を歩く人々に見られることはない。店主一人とその息子のみが働いていて、客は一人。その空間が落ち着くのだと、若い客と成幸が話しているのを何度か耳にした。
「でも、なんだか嬉しいな」
「は?」
「き、北橋くんも僕と同じ、そういう美容院に行くのが苦手だなんて」
ぽっ、と照れる薫を目にし、祐介は勢いよく薫とは反対側に首を動かす。
目を大きく開き、歯を食いしばる。
突如高鳴り始めた胸を押さえ、薫に悟られないよう必死に深呼吸をする。
「ど、どうしたの? 熱中症?」
薫は心配そうに祐介の顔を覗き込もうとするが、顔を背けるばかりである。
無視をされた気分になり、薫の表情は曇っていく。
祐介は「あー、クソ」と小さく呟き、意を決して話す。
「お前、自分のその顔面のこと分かってんのか?」
「顔?」
「めちゃめちゃ綺麗な顔なんだから、それくらい理解しとけよ」
「……えっ」
思わぬ発言に、薫はぼぼっとトマトのように顔を赤くする。
「そ、それだよ、それ」
「ど、どれ?」
「お前が照れると、ちょ、調子が狂うだろうが」
「......えっ」
二人の顔に熱が集中し、無言になる。
ガードレールの外側で走る車の音がうるさく耳を突く。
クソ、なんだよこの空気。これじゃまるで。
その先は想像もしたくない。
祐介は頭を振るが、何も消えやしない。
この空気が、無言が、二人の熱を上げている。祐介はそれを破るように口を開く。
「暑いな」
「な、夏だからね」
薫の言葉を肯定するように、蝉が一斉に鳴き始めた。
鋏を届けに行った日から、何かとHairSolaへ行く機会が多くなった。
貸してもらったあれを返しに行ってほしい、と成幸に頼まれたり、シャンプーのサンプルがあるなら欲しい、とHairSola側から頼まれたり。その度に行き来するのは祐介と薫である。二人で行く必要なんてないだろ、と祐介は眉を寄せていたのだが、HairSola側が薫に会いたいのだと察してからは、自ら「俺も行く」と薫について行くことにした。
「あ、二人とも来た来た」
HairSolaの扉を開けて中に入ると、スタッフの猪原がにっこり笑いながら近寄ってきた。
「二人とも」と言いながら猪原の視線は薫のみに注がれており、下心が丸見えである。
猪原は若く、女性らしい笑顔で薫に話しかける。
「毎回ごめんね、これを北橋さんに渡してほしくて」
そう言って薫に差し出したのは、有名な百貨店の名前が載っている紙袋だった。
「店長から、皆で食べてって」
「あ、ありがとうございます。あの、これ」
「ありがとう! 店長に渡しておくね」
薫が渡した書類を大事そうに抱える姿に、祐介は小さく鼻を鳴らした。
書類が一枚入っているだけのファイルである。それをあざとく抱えずともいいだろうに。
もやもやと猪原に対して、負の感情が芽生える。
隣に祐介がいるというのに、見向きもしない。
猪原は「店長から」と言って紙袋を薫に渡したが、それはHairSolaの店長からキタハシ美容室の店長への贈り物だろう。ならば息子である自分に手渡すのが普通ではないだろうか。祐介はちくちくと猪原に棘を刺す言葉を言いそうになる。
「本当に恰好いいね、薫くんは彼女いるの?」
「え、い、いません」
「そっかぁ、じゃあ私が立候補しよっかな。なんちゃって」
「え? あ、ハハ......?」
どういう返しをすればいいか分からない薫はとりあえず笑ってみる。
口元を引き攣らせる薫を見て、祐介は満足げに笑う。
こんな薫を見るのは初めてだ。きっと迷惑しているのだ。
嫌だ、と薫の横顔からでさえ伝わってくる。正面にいる猪原からも見えているはずだが、気づいていないのか。
祐介は「あー」と何かを思い出したように声を上げた。
「もうこんな時間か。じゃ、それ店長に渡しておいてください」
祐介は猪原にそう言うと、さっさと店を出た。薫も急いで後を追い、来た道を戻る。
「お前なぁ、嫌なら断れよ」
祐介は呆れたように、けれどどこか嬉しそうに、薫へ伝えた。
薫は大きく息を吐いた。
「ありがとう、助かったよ。僕、苦手なんだ」
「だから断れって」
「そ、そうだよね」
「いくら断るのが苦手だからってな、このままだといつか事件に巻き込まれるぞ」
「あ、そうじゃなくて」
「なんだよ」
頭上から降り注がれる熱は、帽子を被っていても容赦がない。
近くのコンビニでアイスでも買って帰るか。
そんな小さな計画を立ていると、薫から「女性が」という小さな声が聞こえた。
「は?」
「女性が、苦手なんだ」
「は、はー、そう」
女性が苦手。
だから猪原に対して引き気味だったのか。それならば、彼女ができる日は遠いだろうな。
と、考えて気づいた。
彼女とは、女性である。女性が苦手というならば、女性と恋愛ができない。ということはつまり、男性が恋愛対象ということだろうか。
祐介は目を瞬かせる。
さすがに「お前って男が好きなの?」という無神経なことは聞けない。もし肯定されたとして、何と返せばいいのかも分からない。言いふらす趣味はないが、重大な秘密を打ち明けさせた罪悪感が芽生えそうだ。
いつか薫に「気持ち悪い」と言ったことがある。
しかし、男性が好きなのかもしれないと思った今、気持ち悪いとは思わなかった。
薫は人間として綺麗だ。男性とも女性とも言い難い美しさがあり、性別を感じさせない。そんな薫の恋愛対象が男性であっても不思議ではない。
「ぼ、僕、本当は、女の人じゃなくて」
何か重大な事実を打ち明けるような、真剣な表情で言葉を紡ぐので、祐介は慌てて「待て待て待て」と遮った。
「お前、やめとけ」
「……どうして? 僕が何を言うか、分かるの?」
この流れだと、何を言おうとしているか分かってしまう。
言いたいことはきっと、祐介が考えていたことと同じだろう。
「俺が言いふらしたら、どうすんだよ」
眉間にしわを寄せる祐介に、薫は驚いたがすぐに笑みを浮かべた。
「な、なんだよ。そういうのは大事なことなんだろ? アウティング、だっけか? 俺がそんなことしたら、どうすんだよ」
アウティング。
性的趣向などを本人の同意なく暴露する行為のことだ。
近年、性的趣向や性自認に関するニュースがあちこちで聞こえてくる。
祐介は興味すらなかったが、「知人の〇〇は同性愛者で、△△のことが好きらしい」と暴露した人間が法で裁かれたとテレビで知り、そこでアウティングについて議論されていたのだ。
秘密を暴露すると、罪になる。
同性愛に微塵も興味はなかったが、秘密は守るべきなのだと再認識した瞬間だった。
「そっか、じゃあ、言わない」
「おう、そうしろ」
言ったも同然であるが、薫の口から直接聞いたのではない。すべては祐介の想像なのだ。
祐介は薫のことを「男が好きなのかもしれない」と勝手に思っているだけで、本当のことは知らない。
祐介はそれを、態度で示した。
薫はおかしそうに、くすくす笑った。
炎天下の中、二人は並んで歩く。
歩道が狭く、並んで歩くと互いの手が触れ合ってしまう。
それでも二人は並んで歩いた。
「好きだな」
薫のその小さな一言は、車が走る音にかき消され、祐介には届かなかった。
カットが終わりそうになるとカラーのための道具を用意したり、言わずとも動く薫を成幸は大層気に入っていた。
そんなある日、成幸は二人におつかいを頼んだ。
「これ」
成幸は二人に鋏を一本差し出す。
成幸が普段仕事で使っているような、美容師が持つ鋏だ。
「駅前の美容室があるだろう、ヘアーソラってところが」
HairSola。
祐介は駅前にある、キタハシ美容室の倍以上の規模の美容室を思い出した。
美容室、というよりはサロンと呼ぶべき外観と内装。
洒落た店内は若者に人気があり、美容師も若者ばかり。テレビでも紹介されるような、人気の美容室だ。
「そこの店長とこの間会った時、これを忘れて行ってな。今から渡しに行ってくれ」
「えー」
「鋏は美容師の命なんだぞ」
「その命を忘れていく美容師がいるのか」
「とにかく頼んだからな」
祐介は文句を垂れながら、薫と二人で外に出た。
今回は忘れずに帽子を被り、駅までの道のりを重い足取りで歩く。
隣を歩く祐介は乗り気ではない。
そう気づいた薫は、その理由を訊ねた。
「俺、あの美容室好きじゃないんだよ」
その言葉は薫にとって意外なものだった。
目を見開いたまま、無意識に「意外だ……」と本音がぽろりとこぼれた。
慌てて口元を押さえるが、祐介はその本音を不快に思うことなく続ける。
「無駄に豪華で目が痛い。落ち着かない」
「ぼ、僕も、流行りの美容室は好きじゃなくて。洒落た店ってガラス張りになっているところが多いから人に見られるし、僕とは正反対の性格をした美容師さんが話しかけてくるし、耐えられないんだ」
「だから美容室行かずにあんな髪だったのか?」
「う、うん」
キタハシ美容室はそういう客にも需要がある。
規模や外観から高齢女性の客が多いと思われがちだが、意外と年齢層は幅広い。十代、二十代、三十代の男女も来店する。
理由は薫同様、洒落た美容室に行くのが嫌だから、である。
キタハシ美容室はガラス張りではないため、外を歩く人々に見られることはない。店主一人とその息子のみが働いていて、客は一人。その空間が落ち着くのだと、若い客と成幸が話しているのを何度か耳にした。
「でも、なんだか嬉しいな」
「は?」
「き、北橋くんも僕と同じ、そういう美容院に行くのが苦手だなんて」
ぽっ、と照れる薫を目にし、祐介は勢いよく薫とは反対側に首を動かす。
目を大きく開き、歯を食いしばる。
突如高鳴り始めた胸を押さえ、薫に悟られないよう必死に深呼吸をする。
「ど、どうしたの? 熱中症?」
薫は心配そうに祐介の顔を覗き込もうとするが、顔を背けるばかりである。
無視をされた気分になり、薫の表情は曇っていく。
祐介は「あー、クソ」と小さく呟き、意を決して話す。
「お前、自分のその顔面のこと分かってんのか?」
「顔?」
「めちゃめちゃ綺麗な顔なんだから、それくらい理解しとけよ」
「……えっ」
思わぬ発言に、薫はぼぼっとトマトのように顔を赤くする。
「そ、それだよ、それ」
「ど、どれ?」
「お前が照れると、ちょ、調子が狂うだろうが」
「......えっ」
二人の顔に熱が集中し、無言になる。
ガードレールの外側で走る車の音がうるさく耳を突く。
クソ、なんだよこの空気。これじゃまるで。
その先は想像もしたくない。
祐介は頭を振るが、何も消えやしない。
この空気が、無言が、二人の熱を上げている。祐介はそれを破るように口を開く。
「暑いな」
「な、夏だからね」
薫の言葉を肯定するように、蝉が一斉に鳴き始めた。
鋏を届けに行った日から、何かとHairSolaへ行く機会が多くなった。
貸してもらったあれを返しに行ってほしい、と成幸に頼まれたり、シャンプーのサンプルがあるなら欲しい、とHairSola側から頼まれたり。その度に行き来するのは祐介と薫である。二人で行く必要なんてないだろ、と祐介は眉を寄せていたのだが、HairSola側が薫に会いたいのだと察してからは、自ら「俺も行く」と薫について行くことにした。
「あ、二人とも来た来た」
HairSolaの扉を開けて中に入ると、スタッフの猪原がにっこり笑いながら近寄ってきた。
「二人とも」と言いながら猪原の視線は薫のみに注がれており、下心が丸見えである。
猪原は若く、女性らしい笑顔で薫に話しかける。
「毎回ごめんね、これを北橋さんに渡してほしくて」
そう言って薫に差し出したのは、有名な百貨店の名前が載っている紙袋だった。
「店長から、皆で食べてって」
「あ、ありがとうございます。あの、これ」
「ありがとう! 店長に渡しておくね」
薫が渡した書類を大事そうに抱える姿に、祐介は小さく鼻を鳴らした。
書類が一枚入っているだけのファイルである。それをあざとく抱えずともいいだろうに。
もやもやと猪原に対して、負の感情が芽生える。
隣に祐介がいるというのに、見向きもしない。
猪原は「店長から」と言って紙袋を薫に渡したが、それはHairSolaの店長からキタハシ美容室の店長への贈り物だろう。ならば息子である自分に手渡すのが普通ではないだろうか。祐介はちくちくと猪原に棘を刺す言葉を言いそうになる。
「本当に恰好いいね、薫くんは彼女いるの?」
「え、い、いません」
「そっかぁ、じゃあ私が立候補しよっかな。なんちゃって」
「え? あ、ハハ......?」
どういう返しをすればいいか分からない薫はとりあえず笑ってみる。
口元を引き攣らせる薫を見て、祐介は満足げに笑う。
こんな薫を見るのは初めてだ。きっと迷惑しているのだ。
嫌だ、と薫の横顔からでさえ伝わってくる。正面にいる猪原からも見えているはずだが、気づいていないのか。
祐介は「あー」と何かを思い出したように声を上げた。
「もうこんな時間か。じゃ、それ店長に渡しておいてください」
祐介は猪原にそう言うと、さっさと店を出た。薫も急いで後を追い、来た道を戻る。
「お前なぁ、嫌なら断れよ」
祐介は呆れたように、けれどどこか嬉しそうに、薫へ伝えた。
薫は大きく息を吐いた。
「ありがとう、助かったよ。僕、苦手なんだ」
「だから断れって」
「そ、そうだよね」
「いくら断るのが苦手だからってな、このままだといつか事件に巻き込まれるぞ」
「あ、そうじゃなくて」
「なんだよ」
頭上から降り注がれる熱は、帽子を被っていても容赦がない。
近くのコンビニでアイスでも買って帰るか。
そんな小さな計画を立ていると、薫から「女性が」という小さな声が聞こえた。
「は?」
「女性が、苦手なんだ」
「は、はー、そう」
女性が苦手。
だから猪原に対して引き気味だったのか。それならば、彼女ができる日は遠いだろうな。
と、考えて気づいた。
彼女とは、女性である。女性が苦手というならば、女性と恋愛ができない。ということはつまり、男性が恋愛対象ということだろうか。
祐介は目を瞬かせる。
さすがに「お前って男が好きなの?」という無神経なことは聞けない。もし肯定されたとして、何と返せばいいのかも分からない。言いふらす趣味はないが、重大な秘密を打ち明けさせた罪悪感が芽生えそうだ。
いつか薫に「気持ち悪い」と言ったことがある。
しかし、男性が好きなのかもしれないと思った今、気持ち悪いとは思わなかった。
薫は人間として綺麗だ。男性とも女性とも言い難い美しさがあり、性別を感じさせない。そんな薫の恋愛対象が男性であっても不思議ではない。
「ぼ、僕、本当は、女の人じゃなくて」
何か重大な事実を打ち明けるような、真剣な表情で言葉を紡ぐので、祐介は慌てて「待て待て待て」と遮った。
「お前、やめとけ」
「……どうして? 僕が何を言うか、分かるの?」
この流れだと、何を言おうとしているか分かってしまう。
言いたいことはきっと、祐介が考えていたことと同じだろう。
「俺が言いふらしたら、どうすんだよ」
眉間にしわを寄せる祐介に、薫は驚いたがすぐに笑みを浮かべた。
「な、なんだよ。そういうのは大事なことなんだろ? アウティング、だっけか? 俺がそんなことしたら、どうすんだよ」
アウティング。
性的趣向などを本人の同意なく暴露する行為のことだ。
近年、性的趣向や性自認に関するニュースがあちこちで聞こえてくる。
祐介は興味すらなかったが、「知人の〇〇は同性愛者で、△△のことが好きらしい」と暴露した人間が法で裁かれたとテレビで知り、そこでアウティングについて議論されていたのだ。
秘密を暴露すると、罪になる。
同性愛に微塵も興味はなかったが、秘密は守るべきなのだと再認識した瞬間だった。
「そっか、じゃあ、言わない」
「おう、そうしろ」
言ったも同然であるが、薫の口から直接聞いたのではない。すべては祐介の想像なのだ。
祐介は薫のことを「男が好きなのかもしれない」と勝手に思っているだけで、本当のことは知らない。
祐介はそれを、態度で示した。
薫はおかしそうに、くすくす笑った。
炎天下の中、二人は並んで歩く。
歩道が狭く、並んで歩くと互いの手が触れ合ってしまう。
それでも二人は並んで歩いた。
「好きだな」
薫のその小さな一言は、車が走る音にかき消され、祐介には届かなかった。