アウダー・ワーグとの一戦から一週間が過ぎた。
 リンツ街へと戻った俺たちは、無事に依頼達成となって胸を撫で下ろした。

 今後、アウダーはヒストルの手によって、じっくりと尋問を受けることになる。
 相手が貴族だろうが関係ない。此処にはアウダーを救い出すような人物はいないのだからな。

 ノアは暫くの間リンツ街で休暇を取ることを決めたらしい。
 せっかくなので、明日は木の実拾いに連れて行くことにした。

 レイは一人でフルコースを平らげ満足したのか、膨れたお腹を叩きながら実家へと戻っていった。

 そしてその夜……。
 共同浴場から戻ってきたロザリーと二人、湯上りの酒を飲みながら部屋で寛いでいた。

「そろそろ寝ようかしら」
「ああ、そうするか」

 酒も飲み終えてしまった。
 明日も当然のように依頼を受ける。それが俺たち冒険者の役目だ。

 とはいえ、その前に一つぐらい、勝手なことをしても構わないだろう。

「寝る前に、一ついいか?」
「なに?」

 ロザリーが部屋の灯りを消そうとするのを止める。
 俺は服のポケットから小さな箱を取り出すと、それを開けて見せた。

「……え」

 箱の中身を見たロザリーは、目を丸くする。
 その表情を堪能した俺は、箱の中からそれを手に取ると、ロザリーの左手の薬指に嵌めた。

「これって……」
「遅くなったが、婚約指輪だ。……受け取って貰えるか?」
「……か、勝手に嵌めたくせに、今更聞くわけ?」

 ご尤もな言い分だ。
 十年越しだというのに、やはり締まらないのが俺のダメなところか。

「いや、すまない」
「謝らないで」

 またもや指摘される。謝るのを止められるのは何度目だろうか。

 一拍置いて、ロザリーは踵を上げる。そしてそのまま俺とキスをした。

「……これが、私の答えよ。……分かった?」
「いや、分からない」
「なんでよ!」
「だからもう一回、してくれるか?」

 訊ねる。
 するとロザリーは呆れたようにため息を吐いた。

「はぁ、貴方って人は本当に……仕方のない人ね」

 再び、踵が上がる。
 ロザリーの頬は、既に真っ赤に染まっていた。