「行くぞ」

 日が落ちるのを待ち、俺たちはアウダー・ワーグ男爵の屋敷への侵入を試みる。
 門は閉まっており、更には門番が居るので、裏側の壁を上って敷地内へと入った。

 本来、ブレイブ・リンツのメンバーは調査役であり、実行役はノア一人だが、俺たちも協力することにした。

 アウダーは大勢の冒険者を奴隷として飼い慣らし、護衛として引き連れている。
 ノアがソロのアタッカーとして圧倒的強さを誇るのは疑いようもないが、一人よりも二人、それ以上に仲間が居た方が成功率も高くなる。

 アサシンの俺が先頭に立ち、屋敷内を進んで行く。
 すると、警備兵が扉を守るようにして立っているのが見えた。

 恐らくは彼も冒険者なのだろう。しかし顔色が良くない。ギルドを介して雇われているというよりは、無理矢理警備をさせられているといった様子だ。

 イルリからの情報によると、アウダーは毎夜のように子飼いの冒険者同士を闘わせて悦に浸っているらしい。

「寝てくれ」
「――ッ」

 殺すようなことはせず、気付かれないようにそっと近づくと、一瞬で首を絞める。
 気を失った警備兵はその場にぐったりと倒れてしまう。

「居たぞ、あれがアウダーだな」

 扉を少し開け、室内を確認する。この部屋は大広間のようだ。
 イルリの情報通り、壁にズラリと並ぶ冒険者たちに、真ん中で一対一の決闘を行う者たち、そしてそれを観戦するアウダーと……もう一人。
 顔がよく見えないが、恐らくは奴隷売買に関わる人物なのだろう。

「人数は?」
「二十は居るな」
「案外少ないじゃないか」
「十分多いけどな」

 ノアと軽口を叩き合う。
 実力がどの程度なのかはまだ判断が付かないが、少し前に山賊の一味と戦ったことがあるので、確かに数としては少ないのかもしれない。

「一人何人担当ね?」
「制限はない。好きなだけ倒せ」
「ん~、それでこそリーダーね」

 こちらは四人、相手は二十人以上。
 一人頭五人ほどになるが、いちいち決める必要はない。何故ならば、俺たちは全員がアタッカーだからだ。

 アタッカーの本分は何だ?
 もちろん、攻撃することだ。

 テイマーのように魔物を使役して戦闘させたり、タンクのように敵の攻撃を引き付けてみたり、ヒーラーのように魔法で体力を回復したり、更にはサポーターのようにバフやデバフを掛けることはない。

 攻撃する。それがアタッカーに与えられた役割だ。

「標的はアウダー・ワーグ男爵ただ一人。奴を生きたまま捕らえるぞ」

 好きなように攻撃する。
 間違えて仲間を攻撃するようなことさえしなければ、それでいい。それで構わない。

「戦闘開始だ」

 その言葉を合図とし、俺たちは大広間へと続く扉を開けて一斉に駆け出した。