「此処は相変わらず賑わっているな」

 何年振りかの王都に到着し、俺は感慨に耽る。
 此処まで乗った馬車を専用の置き場に預けて、俺たちは王都の街並みを散策する。

「俺が居た頃とはすっかり変わってしまったな」

 まだ若い頃、モルサル街でパーティーを結成し、期待のルーキーと持て囃された時期がある。モルサル街では敵無しになったパーティーは拠点を王都へと移すことにした。
 だが、順調だったのはそこまでだ。

 王都を拠点にしてからの三年間、何も成すことができなかった。
 毎日必死に弱い魔物を倒して小銭を稼ぎ、その日暮らしを続けていた。

 一歩すら前に進むことができない。
 ただただ停滞していた。
 鉄級三つ星から昇級することができずに足踏みしていた。

 実力不足を悟ったあと、結局はモルサル街から出直すことにした。

「リジン、懐かしい?」

 横からロザリーが声を掛けてくる。
 俺の何とも言えない表情を見て気になったのだろう。

「ああ……とは言っても、良い思い出は全くないけどな」

 この場所には嫌な思い出が多すぎる。
 ロザリーとの出会いが無ければ足を運ぶことも拒絶していたかもしれない。

「此処はさ、昔の俺が何も成すことができなかった場所なんだ」

 ふと、思い出してしまう。
 昔、パーティーを組んでいた元仲間たちの顔を……。

 これまでに合計八度もパーティーを組んだことがあるが、その中でもやはり一度目のメンバーには思い入れがある。

 あれから五年が過ぎた。
 今も冒険者を続けているのだろうか。

 ひょっとしたら、王都を拠点に活動しているかもしれない。
 だとすれば、探せばすぐに見つかるだろう。

 だがもちろん、そんなことをするつもりは毛頭ない。
 パーティーをクビになった時点で、俺にとっては過去の存在でしかない。

 それに今の俺には信頼できる仲間たちがいる。
 ロザリー、レイ、そしてパーティーの仲間ではないが、ノアも。

 過去を振り返る暇があるのなら、今の仲間たちと共に前へ進むべきだ。

「時間が惜しい。目的地に行くぞ」

 気が重いが、仕方あるまい。
 今回の依頼を達成するためには、避けては通れない道がある。

「上手くいくといいわね」
「大丈夫さ」

 俺たちの行く先は、ギルドでも王城でもない。
 俺の元実家――エイジェーチ家の屋敷だ。