ギルドマスターになるには、銀級三つ星以上の身分が必要となる。
 つまり俺たちの目の前にいる人物――リンツ街でギルドマスターを務めるヒストルは、元銀級三つ星以上の冒険者ということだ。

 そして今、そのヒストルから夕食の席に招待されたブレイブ・リンツのメンバーは、ギルド食堂にてフルコースを堪能していた。

「んー! これもデリシャスね! でもでもやっぱりこっちの方が美味ね!」

 ヒストルと顔を合わせて食事をしているというのに、レイはいつも通りだ。それもそのはず、レイは生まれも育ちもリンツ街なので、ヒストルとも顔馴染みなのだ。故に、全くと言っていいほど緊張していなかった。

 ロザリーは、多少畏まった様子を見せてはいるが、顔色を変えるようなことはしない。相変わらず何を考えているのか予想し難い。

 で、俺はというと、ヒストルの圧に押されてフルコースの味がこれっぽっちも分からなかった。もう、何を食べているのかさえ定かではない。

 というか、フルコースを奢られるのが怖すぎる。

「当ギルド食堂のフルコースは如何かな?」
「凄く美味しいです」
「うむ、それは良かった」

 但し、味は分からないけどな。
 そう答えるほかに道は無い。

「リンツ街は木の実料理が主流でね、ホビージャ国の王級料理よりも美味いと断言しよう」

 此処は一応ホビージャ国の領土なのだが、そんなことを言って大丈夫なのだろうか。
 いや、リンツ街はエルフの森との境目、つまりは辺境にあるからな。王都まで声が届くことはそうそうあるまい。

「ところで、」

 急に、ヒストルが手を止める。
 と同時に、ロザリーと俺に目を向け、笑みを消して真面目な表情を作り込んだ。

「ブレイブ・リンツの実力を見込んで、私から一つ相談がある」

 いよいよ本題か。
 まさか、ただ飯をご馳走してくれるだけで終わるはずがない。

「いや、これは相談と言うよりは……当ギルドからブレイブ・リンツへの依頼だね」
「リンツギルドからの……つまりそれは、ギルド直々の指名依頼ということですか?」
「如何にも」

 指名依頼。
 それは、ノアが王都から山賊討伐依頼を受けたときと同等のものとなる。

 何処のギルドであろうとも、指名依頼は相応の実力者でなければ依頼することはないし、通常時には発注されることのないものだ。それを俺たちに頼むとは……。

「あの、俺たちで大丈夫なんですか?」
「きみたちの実力は既に知っているよ。山賊討伐に協力しただけでなく、その頭を……元銀級三つ星のヤゴンを倒したのだからね」
「いや、あれは運が良かっただけで……」
「謙遜しないね」

 レイが口を挟む。
 フルコースを堪能しつつも、ニヤリと笑ってヒストルを見た。

「リジンの腕はおっちゃんにも負けないと思うね」
「お、おい!」

 焦る。
 ギルドマスターをおっちゃん呼びするなんて、失礼にも程があるぞ。
 いやしかし、レイとヒストルの仲ならば問題ないのか……?

「……そうね、リジンが銀級冒険者に匹敵する力を持っているのは確かよ」
「ろ、ロザリーまで……!」

 ブレイブ・リンツのメンバーは俺を買い被りすぎだ。
 俺はただのアサシンで、銅級二つ星になったばかりの腕しか持っていない。

「この私が保証するわ。リジンは間違いなく強い」

 更に付け加え、ロザリーは再び食事の手を動かす。
 言いたいことだけ言って、そのあとは知らないとでも言うつもりか。

「良い仲間と出会えたようだね」
「……っ」

 頭を悩ませる俺を見て、ヒストルが表情を緩める。
 それはイルリにも言われた台詞だった。

 どいつもこいつも、言いたいことを言ってくれるじゃないか。

 だが、その言葉を耳にした俺は、諦めにも似た表情を浮かべつつも、しっかりと頷いてみせる。そして返事をした。

「はい。最高の仲間たちです」

 その言葉に、嘘偽りはない。
 ブレイブ・リンツは最高のパーティーであり、ロザリーとレイは最高の仲間だ。

「……それで? 俺たちブレイブ・リンツへの指名依頼と言うのは何でしょうか?」

 だからこそ、俺は訊ねることにした。
 最高の仲間たちと共に、ギルドマスター直々の指名依頼を受注するために……。