夢を見た。
 それは今よりもずっと前、俺がまだ十五歳のときの夢だ。

 金級冒険者になるのを夢見て、俺はエイジェーチ家を出ることを決めた。
 冒険者になって活躍する自分の姿を想像することで、地獄のような日々にも耐えることができた。

 そんなある日のこと。
 いつものようにお茶会が開かれた。

 そのお茶会は、少し特殊だった。
 通常は腹違いの兄弟が主役を務めるのだが、このお茶会――ローグメルツ家主催のお茶会だけは違っていた。
 何故か兄弟は出席せず、俺と両親だけが足を運んでいた。

 そして理由は不明だが、このお茶会のときだけは両親の機嫌が良く、俺に対する当たりが弱くなる。外面を張り付けているときでさえ、俺には厳しい両親が、ローグメルツ家のお茶会限定で優しくなるのだ。
 更にここには俺を苛める兄弟もいない。だから居心地が良かった。

 しかし、その最たるものは別にある。
 それは小さな女の子だった。

 ローグメルツ家の三女で、歳は五つ。
 まだ幼いというのに、しっかりとした受け答えができる女の子で、とても賢い子だなと思っていた。

 両家の親は、ローグメルツ家でお茶会が開かれる度に、俺とその女の子を引き合わせて遊ばせた。

 その子は俺のことを気に入っていた。
 自分が十八歳になり、成人したとき、オレのお嫁さんになって支えてあげるね、と言われたことがある。よくある話の一つだ。

 好かれるのは悪い気分ではない。
 だが、俺は後三年もすればエイジェーチ家を出て冒険者になると決めている。だから、支えてもらうにはついてきてもらわないと困るな、と冗談のつもりで返事をしたのを憶えている。

 それを真に受けたのだろう。
 その子は「じゃあついていくわ! 家を出るときは教えてね? わたしも一緒に行くから」と微笑んでいた。

 それから三年後のある日。
 俺はエイジェーチ家から勘当されて家を出た。

 そのときの俺はすっかり忘れていた。
 ローグメルツ家の三女に伝えに行くことを。
 そしてその子と交わした約束を……。