木の実拾いを終えてギルドに戻った俺たちは、受付のイルリに回収袋三つを預けた。

 依頼分は採っているので、報酬は問題なく受け取ることができる。更に依頼分とは別に木の実を査定に出した。これがどれほどの額にになるのか、ロビーのソファで寛ぎながら待つことにした。

「ふんふん~、今日は食堂で一番高いメニューを頼めるね」
「ご機嫌だな」

 表情を緩めるレイを見て、俺も期待してしまう。
 そんなに報酬が高くなるのだろうかと。

「ブレイブ・リンツの皆さま、お待たせしました。査定が終了しましたので、受付までお越しください」
「行くね!」

 イルリの声がロビーに響く。
 と同時に、レイがダッシュで受付へと向かった。
 そしてそのあとをロザリーと俺が歩いてついて行く。

「まずは依頼報酬がこちらになります」

 そう言って、イルリがトレイの上に大銀貨を二枚乗せる。
 これはあらかじめ報酬額が記されてあったので分かっていたことだが、それにしても額が多い。木の実を集めただけで、大銀貨二枚とは、大奮発にも程がある。

「そしてこちらが、残りの合計査定額になります」
「じゅ……十枚も!?」

 トレイの上に置かれたのは、大銀貨十枚。
 大金を前にして、俺は思わず声が漏れ出てしまった。

「いただくね!」

 トレイから大銀貨十枚を拾い上げ、レイは踵を返す。
 ロザリーと俺は、イルリに頭を下げたあと、再びロビーのソファに腰掛ける。

「大銀貨が全部で十二枚ね。だから三等分で異議なしってことでいいね?」
「ああ。異議なしだ」
「構わないわ」

 分け前は等しく。それがパーティーの仲を壊さないための秘訣であり鉄則だ。
 レイは一番多く木の実を集めたが、特に文句を言うこともなく、あっさりと三等分の額を示した。

「しかしまあ、こんなに稼げるなら毎日でも木の実を拾いたいものだな」

 冗談で言う。
 もちろん、そんなつもりは毛頭ない。俺たちは冒険者であり、魔物を倒すことが本業だからな。

 すると、レイが両手でバツ印を作る。

「リジン、乱獲は御法度ね。木の実が主食の動物たちもいるね」

 なるほど、言われてみれば確かに、木の実には数に限りがある。
 そのほとんどを人間が持って行ってしまえば、それを食べる動物が困ってしまう。

 ほどほどが一番ということか。

「それはそうと、罰ゲームの始まりね!」
「うっ」

 ぎくりとする。
 レイは、ニヤニヤと笑いながら俺を見ている。頼むから無理難題は止めてくれ。

「あたしからの罰ゲームは、今日の晩飯奢るね!」
「……ん? そんなことでいいのか」

 以外に拍子抜けする内容に、俺は内心ホッとした。
 しかし残念ながらレイの命令はその程度では済まない。

「さっきも言ったね! 今日は一番高いメニューを頼むつもりだから覚悟するね!」
「一番高いメニューか……」

 そうだった。
 というか、あれは俺に対する罰ゲームでウキウキしていたのか。

「ところで、食堂で一番高いのって何だ?」
「ギルド食堂特製フルコースに決まってるね!」
「ふ、フルコース……」

 食堂のメニュー表を取りに行く。
 そこに書かれたフルコースの金額を見て、俺は卒倒しそうになった。

「……なあ、俺の分の稼ぎが消えるんだが?」
「ゴチになりますね!」
「くっ」

 フルコース一人前で、大銀貨四枚。
 俺は決めた。明日も木の実拾いで小銭を稼ぐと……。