木の実拾い競争が幕を開けたわけだが、俺の策は単純明快なものだ。

「……おっ、見つけたぞ」

 木の実は木に生るが、これは木の実拾いだ。
 つまり、わざわざ上を見ずとも、既に落ちたものを拾えばいい。

 そう考え、俺は足元に転がる木の実を中心に回収袋へと詰めていく。
 これは良い手段だ。この調子ならレイにも勝てるかもしれない。

 その調子で木の実拾いを続けること数十分、他の二人の様子を見ることにした。

 すぐ傍に、ロザリーの姿を発見する。
 遠目に見学してみると、例の風魔法を巧みに扱い、空気の塊を木の実にぶつけて落とし、それを一つ一つ回収していた。木への影響はゼロに等しく、良い集め方と言えるだろう。

 その一方でレイはというと……。

「ソイヤー!」

 そこかしこで気合の入った掛け声と、グーパンの当たる音が聞こえるので、あの回収方法を続けているに違いない。

 休んでいる暇はない。負けたら罰ゲームが待っている。
 俺も気合を入れ直し、再び地面を見ながら歩き、木の実拾いを再開した。

 それから更に数十分が経過し、制限時間を回った。
 山の入口へと戻り、二人と合流する。

「さあ、成果の確認ね!」

 互いの回収袋を地面に並べる。
 この時点で既に気付いたが、レイの回収袋が一番多く入っているように見えた。
 やはりと言うべきか、リンツ街を拠点として活動しているだけのことはある。これはロザリーと俺の下位争いになりそうだ。

 回収袋から一つずつ木の実を手に取り、数が分かるように並べていく。
 その結果、ロザリーが百五十個で、レイが三百二十一個、そして俺が百六十個だった。

「ふう、罰ゲームは免れたか……」

 一番少なかったのはロザリーだ。
 俺は安堵の息を吐く。だが、レイが「ノンノンノン!」と右手の人差し指を立てながら振ってみせる。

「リジンは、これを食べるね?」

 レイは俺が集めた木の実を一つ掴み、顔の前に持ってくる。
 それを見た俺は、思わず顔を歪めた。

「リジンが採った木の実は、虫食いや潰れかけのやつばかりね」

 指摘を受け、並べた木の実を一つ一つ手に取って見てみる。
 確かに、レイに言われた通りだ。

「全部、地面に落ちたやつだからか……」

 俺が集めた木の実は、全て拾ったものだ。故に、その類が多くなってしまったのだろう。
 これは盲点だったな、集める段階で気付くべきだった。

「楽に集めることはできないね。それが木の実拾い! それが木の実集め! 奥の深さを思い知るがいいね!」
「ドヤ顔は止めろ」
「フフンッ!」

 結果、ギルドに提出可能な木の実の数で計算し直すと、俺が一番少なくなった。
 つまり、罰ゲームは俺が受けることになったわけだ。

「言うこと一つ! ギルドに戻ってから考えるね!」

 ホクホク顔のレイと、口元を緩めるロザリーを見て、俺は肩を落とすしかなかった。