闇夜の山中は山賊の一味の縄張りだ。
 しかしながら、ロザリーとレイには関係のない話だった。

「――【アイシクル・スピア】」

 ロザリーは魔力の流れで山賊たちの位置を把握し、次々と攻撃魔法を放っていく。
 そのいずれもが命中し、山賊たちの戦力を削いでいた。そして、

「んー、……はいいっ!!」
「ぐはっ」
「はいはい! そっちも~、はいね!!」
「がはっ」

 レイに至っては、目を瞑ったままの状態で、襲い掛かる山賊たちを一人、また一人と返り討ちにしていった。

「まだまだいくね! かかってこいね!」

 こちらは空気の流れを感じ取り、山中を動く山賊の位置を特定していた。
 ロザリーとレイは背中を合わせて互いの目が届かない場所を減らし、山賊の数を確実に減らしていく。

 そんな中、猛攻を続ける山賊の攻撃の手が止まった。
 かと思えば、暗闇の中から筋骨隆々の輩が一人、ゆっくりと近づいてくる。

「くくく、まさかオレたちが背後を取られていたとはな……」

 空気が変わる。
 その男は一定の距離で歩を止めると、ロザリーとレイの姿を瞳に捉えた。

「オレの名はヤゴン。なった覚えはねえが、一応こいつらの頭をしてる」

 ヤゴン。
 そう名乗った男は、山賊の頭でもあると宣言する。

「なあ、どうしてオレが名前を教えてやったか分かるか? それはな、今ここでテメエらが死ぬからだ」

 ヤゴンが殺気を放つ。冷たくも鋭いそれは、二人の脈を速めた。
 レイは思わず目を開き、ロザリーも冷や汗を掻く。

「逃げられるとは思うなよ」

 一歩、距離が近づく。
 とここで、横から口を挟む者が一人いた。

「――逃げるつもりは毛頭ない」

 真っ暗な山中から姿を現し、息を切らしながらもロザリーとレイの前に立つのは、リジンだ。

「お前が山賊の頭だな?」
「テメエは何者だ。そいつらの仲間か」

 問いかけ、問われる。
 リジンは息を整えると、ヤゴンから目を離さずに口を開く。

「俺の名はリジン・ジョレイド。ここにいる二人とパーティーを組んでいる」
「ほう? なるほどな……良い面構えをしてやがる。テメエがリーダーだな?」

 その問いかけに対し、リジンは答えない。答えようがない。
 ブレイブ・リンツにリーダーは居ない。というよりも、まだ決めていなかった。

 とはいえ、わざわざ決める必要はないとリジンは考えている。
 全員がアタッカーで、全員が同じ立場、それがブレイブ・リンツなのだ。

「見たところ全員アタッカーみてえだが……タンクやヒーラーには仲間になってもらえなかったのか?」

 山賊までもが、アタッカー不要論を口にする。
 それに同調するように、ヤゴンの手下たちも面白おかしく笑う。

「必要ないさ」

 だが、否定する。
 ブレイブ・リンツには必要のない役職だ。

 リジンは口元を緩め、堂々と宣言する。

「俺たちは強い。この国最強のパーティーだからな」
「……大きく出やがったじゃねえか」

 リジンの宣言を耳にしたヤゴンは、同じく笑う。
 アタッカーしかいないパーティーを前に、思うところがあったのだろう。

「せっかくだ、テメエらのパーティーの名も教えろ」
「ブレイブ・リンツ。それが俺たちのパーティー名だ」
「……覚えておこう。まあもっとも、今ここでテメエらが死ぬまでの僅かな間だがな」
「忘れないさ。少なくとも、お前が死ぬまでの間は……な?」

 リジンが言い返す。
 と同時に、ヤゴンの殺気を一身に浴びるも、一切動じない。

 リジンは両手に短剣を握り締め、戦闘態勢を取る。
 ノア・ロークと対峙するかのような感覚を覚えた。それもそのはず、ヤゴンは格上であり、絶対的な強者の立ち位置にいる。

 銀級三つ星か、否、もしかするとノアをも凌駕する実力の持ち主かもしれない。
 だが、リジンたちに後退の文字はない。

 ブレイブ・リンツは、アタッカーのみで構成されたパーティーだ。
 つまり、攻撃する他に初めから道は無い。

「手は出すんじゃねえ……コイツらはオレが殺る。その間にテメエらはあっちを片付けとけ」

 手下に命じ、ヤゴンは腰に下げた武器を抜く。
 そしてすぐさま、戦闘が始まった。