山賊の一味は、統制が取れている。
 用意しておいた広範囲攻撃魔法を強引に回避されたにもかかわらず、次なる一手として一斉に駆け出し攻撃を仕掛けてきた。
 討伐隊が陣形を整える隙を与えないつもりだったらしい。

 唯一、討伐隊の中で対応できたのが、ノア一人だ。
 そこに俺が助太刀する形となった。

 しかしながら、こちらも油断は禁物だ。
 俺の横槍で足を止めることにはなったが、それは言い換えれば深追いせずに状況を見極める能力があるということだ。

 ロザリーとレイの安否も気になるが、現状はノアと二人で山賊たちの攻撃を凌ぐしかない。

「行け」

 山賊の中でも背の高い男が指示を出す。先ほど指示を出していたのも、この男だ。もしかすると山賊の頭かもしれない。
 すると、足を止めていた山賊たちが、得物を手に再度攻撃を仕掛けてきた。

 ノアは、大剣を両手で掴んで迎え撃つつもりだ。
 一方で俺はというと、ジョブ柄、待ちの姿勢を取ることはない。山賊たちが固まる中心部へ向けて、全速力で駆け出した。

「なっ、こいつ何を――っ」

 思わぬ行動に居を突かれた山賊を一人、すれ違いざまに喉首狙いで短剣を振り抜く。

「三人目、と」

 走るのを止めて振り返ると、得物を構えた山賊が二人、俺に殺気をぶつけてくる。

 他の五人は俺を無視し、ばらけたままノアに襲い掛かるが、標的となるノアは全く動じない。
 大剣を思い切り振り下ろすと、剣撃と爆風を巻き起こし、すぐ傍まで来ていた山賊たちを一掃する。俺も危うく巻き込まれるところだった。

 しかしそのおかげで、殺気をぶつけていた山賊二人の隙を作ることができた。
 地を蹴り、一瞬で間合いを詰めると、短剣で喉元を突き刺す。そしてもう一人には小型ナイフを投擲し、同じように息の根を止める。

 その間、ノアは地面に転がる山賊たちに向け、先ほどよりも小さめの剣撃を放つと、一人ずつ確実に息の根を止めていく。

「……強いな」

 これが銀級三つ星冒険者、ノア・ロークの腕前か。
 見ているだけで惚れ惚れする。

 助太刀する必要などなかったのかもしれないと思いつつも、気を取り直す。
 谷あいを下りてきた山賊たちの三分の一を片付けたが、それでもまだ二十名ほどが残っている。

 アタフタしていた討伐隊の面々も、やっと準備ができたのか、ノアの許へと集い始める。

「ノア! 仲間を助けに行くから、あとは任せる!」
「ああ。生きてまた会おう!」

 声を上げ、返事を貰う。
 谷あいを下りた山賊たちの横を走り抜けるが、誰も追いかけるようなことはしない。山中にはまだ山賊の一味がいるから問題ないとでも思っているのだろうか。

 考える暇はない。
 俺は全力で谷あいを駆け登り、ロザリーとレイの許へと向かった。