ユスランから山賊一味に関する情報を得たあと、俺たちは南側の山脈を探索することにした。

 空を見上げれば、既に日は昇り切っている。これが暗くなる前に何か痕跡を見つけておきたいところだ。

 北側と同様の入山方法を試したあとは、極力音を立てずに山の中を突き進んで行った。
 途中、山脈に巣食う魔物と何度か遭遇するが、その度にブレイブ・リンツのメンバーが各々のやり方で静かに対処した。

 遭遇した魔物の中には、素材として高く売れるものもいた。通常時であれば、魔物の死体を回収袋にそのまま突っ込んでしまうか、それともその場で素材になる部分だけを剥ぎ取り回収するか、悩んでいたことだろう。

 しかし今はギルド指定依頼の真っ只中だ。
 それも討伐対象は魔物ではない。人間である。大荷物を持ったまま行動するのは自殺行為になるだろう。

 結果、魔物の死体はその場に放置することにした。
 その代わりと言っては何だが、手早く魔石だけは回収を済ませる。この程度であれば邪魔にもならないので構わないはずだ。

 北側の山脈で奴らが利用する洞穴を発見したことで、今日中に片が付くことも有り得る。油断はしていないが、内心そんなことを考えてもいた。

 しかし、それからただひたすらに歩き続けることになった。

「……何も見当たらないな」
「ええ。これは思っていたよりも長期戦になりそうね」

 南側の山脈を探索し始めてから、何時間が過ぎただろうか。
 休息を挟みながらも探索を続けたが、山賊一味の痕跡は何一つ出てこない。

 ここよりも、もっと深い場所に住処を作っているのだろうか。
 いや、それとも初めから除外していた湿地帯に潜んでいる場合もある。

 しかしながら、候補に挙げた地点を探索するのは中止だ。

「今宵は野宿だな」
「野宿? まさか、ここでね?」

 真上にあったはずの太陽は沈みかけている。これ以上の探索は自殺行為だ。
 この続きは明朝以降にした方がいいだろう。

「ああ。野宿は嫌か?」

 野宿と聞いて、レイが顔を明るくさせる。

「あたし、野宿するの初めてね! しかも一人じゃなくて三人で! だから凄く楽しみね! ロザリーも一緒ね?」
「……そうね。ソロの方が気楽だけど、賑やかなのも案外悪くないかもしれないわ」
「俺はベッドが恋しいけどな」

 珍しく、ロザリーが同意した。
 するとレイはご機嫌になり、荷物の中から携帯食料を取り出し、ロザリーと俺に手渡す。

「腹が減っては戦は不可能ね。量は少なくともしっかり食べてしっかり寝る。そして明日に備えるね」

 周囲の警戒をしつつも腹を満たし、交代制で見張りをこなす。
 動くのは明朝、次こそは見付けてやる。