「どっ、どうなされたんですか!? 彼らはいったい……!?」

 ユスランたちを連れてリンツ街に戻ると、ギルドに直行する。そして受付業務をこなすイルリを見つけると、彼らを引き渡した。

「北の山脈に山賊が利用する洞穴を発見した。その奥に牢があって、囚われていたんだ」

 ユスランたちを救い出す際、見張り役の山賊を一人倒したことも報告する。
 すれ違いで山賊たちが洞穴に足を運ぶ可能性はゼロではない。もしその場合、危険度は増したと考えていいだろう。

「飲まず食わずだったらしいが、食事と睡眠をしっかり取ればすぐに元気になるはずだ」

 イルリは、ユスランたちの状態を確認する。
 牢に捕まっていたとはいえ、目の光は消えていないし、元気もあるように見えたのだろう。
 ホッと胸を撫で下ろした。

「それで、討伐隊に関する情報は入ったか」
「いえ、一向に……恐らく、予定通りに進んでいないのかと思われます」

 討伐隊がモルサル街を発ってから、既に二日だ。
 未だに何の成果も上がっていないということはつまり、山賊の一味の方が上手の可能性もある。地の利も存在するので、油断したら一瞬でやられかねないので、気を引き締める必要があるだろう。

「引き続き、俺たちは北側を探索するよ」

 しかし、山賊の一味が利用する洞穴を見つけ出すことはできた。
 それが北の山脈にあったので、山賊の住処も同じく北側に作られている可能性が高いだろう。

「イルリ、厄介ごとを押し付けて悪いが、あとは頼んだ」
「いえ、これがわたくしたちギルド職員の仕事ですので。それともう一度、ご武運をお祈り申し上げますね」
「ああ、感謝する」

 ユスランたちをおいて、俺たちは踵を返す。
 時間は有限だ。討伐隊と共に山賊の一味を確実に追い詰めてやる。だが、

「あの!」

 ここで再び、ユスランに声をかけられた。

「どうした、まだ何かあるのか」
「あ、えっとですね……その、お名前を聞いても……いいですか?」
「……名前? 俺たちの?」
「はい! そうです!」

 肩を落とす。
 まさか憶えられていないとは思ってもみなかった。
 俺の隣に立つロザリーは肩を震わせている。今にも魔法を放ちそうだが、堪えてくれ。

「リジンだ。こっちがロザリーで、新しくパーティーに入ったのがレイだ」

 呆れていても仕方がない。
 俺はブレイブ・リンツのメンバーをユスランたちに紹介する。

「リジンさんに、ロザリーさん、そしてレイさんですね……。僕の名前は――」
「タンクのユスランだろ」
「え?」
「そっちがひーらのカヤッタで、きみがテイマーのフージョだったかな?」
「どうして知っているんですか?」

 驚いた顔の三人に対し、名前を憶えてもらえなかった俺は苦笑いしながら告げる。

「モルサル街の期待のルーキーだからな、知ってて当然だ」
「っ、僕たちが……期待のルーキー!」

 これはリップサービスだが、彼らが少しでも元気になれば幸いだ。
 だがな、次会うときに名前を憶えていなかったら……さすがに容赦しないからな。

「じゃあ、俺たちはそろそろ行くから」
「待ってください! もう一つ、お伝えしたいことがあります!」
「伝えたいこと?」

 名乗りもしたし、今度こそとギルドの外に出ようとする。
 しかしまたしてもユスランに呼び止められた。

「あの、リジンさん。僕の勘違いでなければですが……交易馬車が襲われたとき、奴らは牢があった北の山ではなくて、南側から姿を現したはずです」
「……それは事実か」
「リジンさんに誓います」

 俺に誓うな。

「なるほど……貴重な情報だな。感謝するよ」
「それほどでも、あの、頑張ってください!」

 初対面のときと比べると、態度がまるで別人だ。
 それはユスランだけに限ったことではなく、カヤッタとフージョも然り。まあ、いいことではあるか。

「行ってくる」

 それだけ返事を残し、俺たちは再度、北の山脈へと歩を進めるのだった。