「う……あぁ」

 声を絞り出す。
 ここに閉じ込められてから、いったい何日が過ぎただろうか。

 モルサル街とリンツ街を行き来する交易馬車に乗ってすぐ、僕たちは死を覚悟した。
 そう、最初は命乞いも空しく殺されるとばかり思っていた。

 でも、奴らは僕らの身柄を拘束すると、一切手を出さずに、ここに閉じ込めた。
 多少手荒に拘束はされたけど、大した怪我はしていない。それに何より、死なずに済んだことに、神へ心から感謝した。

 二日、いや三日が過ぎた頃、見張りの男から話を聞く機会を得た。
 僕たちを殺さず、かといって手を出すわけでもない理由は、至って単純だった。

 手垢の付いていない新鮮な奴隷として売るためだそうだ。

 買い手は、隣国の貴族だ。
 買われた奴隷がその後どうなるのかは知らないらしい。

 あと数日もすれば、奴隷商が引き取りに来る。だからそれまで大人しくしていろと言われた。

 貴族の奴隷……。
 それはつまり、死よりも恐ろしい未来が待っているということだ。

 もう、絶望しかない。
 けれども自死する度胸も無い僕たちは、奴隷商が姿を現すまでの数日間、ただ黙って何もせずに牢の中で囚われ続けた。

 そんなある日のこと。牢に侵入者が現れた。

 見張りの男を一瞬で仕留めると、彼は牢から僕たちを救い出してくれた。

「あ……あぁ、あり……が……」

 声が出ない。
 涙は出るのに、感謝の言葉を伝えたいのに。
 言葉を発せなくなるほど、この空間に染められていたということだ。

 でも、言わなければならない。絶対に言葉にしなければ後悔する。

「ありが……とう、ございま……す」
「気にするな、同じ冒険者だろ」
「――ッ、ぐ、……ふぐぅっ!!」

 彼の顔を見て、声を聞いて、僕は目を見開いた。
 そして神に感謝した。

 おお、神よ。
 罪深い僕たちに、彼という救いの手を差し伸べてくださり、心より感謝を申し上げます。

 その日、ユスランたちは心に誓ったという。
 今後もし、再び冒険者として生きていくことが許されるのであれば、牢から救い出してくれた彼のように――リジン・ジョレイドのような冒険者を目指します、と。