レイ・ファンはリンツ街を拠点に活動するソロの冒険者で、イルリとは幼馴染の間柄で仲が良いらしい。
「レイ、きみの役割を教えてもらえるか」
「役割? あたしのジョブはグラップラーね。前に出て戦う花形よ!」
「グラップラー……つまりアタッカーか」
「当たりね!」

 レイは自身のジョブをグラップラーと言った。
 ブレイブ・リンツには、既に二人のアタッカーが居る。というかメンバーがその二人だけなのだが、そこに更にもう一人、アタッカーが加わるというのか。

「レイはグラップラーですので、武器はほとんど使用しません。お二人の戦闘方法と被ることはありませんし、一度その目で確かめていただければ納得していただけると思いますが、必ずやブレイブ・リンツのお役に立てるはずです」

 そう言って、イルリがレイの加入を後押しする。そこまで熱く語られるとは思っていなかったので、ロザリーと俺は面を喰らってしまった。

「イルリ、そんなに褒めても何も出ないね」
「ちょっと、大人しくしてて!」

 照れるレイを、イルリが窘める。
 けれども意に介さず軽口を叩くレイに対し、イルリの口調も受付嬢とは思えないほど強くなっていく。

 ロザリーと俺は、そんな二人の行方をただ黙って見守っていた。

 恐らく、レイもアタッカー不要論の煽りを受けた冒険者の一人なのだろう。
 そして仲の良い幼馴染の冒険者をどうにかしてやりたいのかもしれない。

 正直言って、同じ境遇の冒険者を無碍にはできない。
 だが、ブレイブ・リンツに属するのは俺だけではない。隣に佇むロザリーの様子を横目に確認してみる。どうやら眉を潜めているらしい。

「……どうする、ロザリー?」

 俺の独断では決められない。
 故に、俺はロザリーの考えを聞くことにした。

「俺の意見としては、仲間は一人でも多い方がいいと思う」

 今回の討伐対象は山賊の一味だ。魔物よりも狡賢い分、質が悪い。すると、

「……部屋はどうするつもり?」

 よく分からないことをロザリーが口にする。

「部屋?」
「ブレイブ・リンツの部屋のことよ」

 言われて気付いた。
 今現在、俺たちは二人部屋を借りている。
 レイがもし、山賊討伐後も継続してブレイブ・リンツに所属することになれば、今よりも大きな部屋に移る必要が出てくるだろう。

「そうだな……」

 リンツ街の宿屋に三人部屋はあるのだろうか。
 もしなければ、通常の宿屋で部屋を探すか、それとも新たにもう一部屋借りることになるだろう。
 とはいえ、宿泊代は必要経費だ。日々を問題なく過ごし、魔物を狩り続けることができれば、十分にお釣りがくるはずだ。

 結論に達し、声を出そうとしたそのとき、

「あたし、ここが地元ね。実家あるから心配御無用ね」

 レイが口を挟んだ。
 すると、それを聞いたロザリーは眉が緩んだ。

「……レイ・ファンと言ったわね? これからよろしく頼むわ」
「! こちらこそね! 二人とも大船に乗った気分でいるといいね!」
「ちょ、貴女、手を離しなさい!」

 ロザリーが認めたことで、レイは両手を挙げて喜びを表現する。そしてすぐにロザリーと握手を交わし、繋いだ手をブンブンと振り回す。

 イルリはというと、レイの加入が決まったことで安堵の表情を浮かべている。

「リジン様、ロザリー様、どうかレイをよろしくお願いいたします」

 イルリが首を垂れるが、感謝されるいわれはない。
 むしろ礼を言うのはこちらの方だ。

 ブレイブ・リンツは、アタッカー二人のでこでこパーティーだったが、今日からでこでこでこパーティーに変更だ。

 ……本当に大丈夫か?