ブレイブ・リンツは、ギルド指定依頼――山賊討伐を引き受けることにした。
 ロザリーと共にロビーのソファに座ると、早速作戦会議を始める。

「イルリの話だと、大事になっているみたいだな」

 山賊討伐に伴い、ホビージャ国では大規模な討伐隊が結成されていた。
 討伐隊は王都から専用の馬車数台に乗り込み、モルサル街まで移動したあと、今度はモルサル街からリンツ街へと続く谷あいを少しずつ進みながら、山賊の住処を見つけ出すつもりのようだ。

 リンツ街に顔を出すことなく、更には新米が集うモルサル街の冒険者の手を借りずに動くことから、彼らのプライドの高さを感じ取ることができた。

 そしてその総指揮を執るのは、ノア・ロークと言う名の男性冒険者だ。
 イルリの情報によると、ホビージャ国から直々に指名依頼を受け、総指揮を執ることになったらしい。

「ノア・ロークか……まさか有名人の名前が出てくるとはな」
「確か銀級三つ星のソロアタッカーよね?」
「ああ、そうだ」

 ロザリーの声に反応し、小さく頷く。
 アタッカー不要論の煽りを受ける側にもかかわらず、それを物ともしない活躍振りで、王都では非常に人気のある冒険者だ。

 ノアが総指揮を執る討伐隊の面々は、銀級二つ星から銅級三つ星で構成されているらしい。正確な人数は定かではないが、討伐隊の階級やノア・ロークが出張ることから考えても、これはホビージャ国の威信をかけたものに違いない。

 過去、何度も何度も討伐隊を組んでは山賊の行方を追ったが、その全てが失敗に終わっていた。山賊たちは一切の痕跡を残さず、人間を魔物に見立て、用意周到に狩りを行うのだ。

 裏を掻くために、交易馬車や行商隊に化けたこともあった。
 しかし隙を見せるように谷あいを移動しても、全く襲われることがない。

 だと言うのに、本物の交易馬車や行商隊が通ると姿を現し、金品や命を奪う。
 つまり、山賊の中には頭の切れる者がいるということだ。
 山賊の実力が定かではない以上、不測の事態が起きないとも限らない。十分に注意する必要があるだろう。

 しかし何より一番の問題は、山賊の住処がどこにあるのかだ。
 北と南、まずはどちらを探索するか……。

 モルサル街とリンツ街を繋ぐ道は谷あいだ。北と南の山々のいずれかに潜んでいるものと思われる。

 これに関しては二択なので、迷っていても仕方がない。
 山の中は広いので、探索するにも時間がかかる。故に、まずは片方に狙いを絞った方がいいだろう。

「どっちに行くの?」
「……北にしよう。南の山脈は湿地帯が近いから、人が隠れるには不向きだ」
「分かったわ」

 これで決まりだ。
 討伐隊がどの程度の速度と日数をかけて山賊を追い詰めるのかは知らないが、ブレイブ・リンツは好きなようにやらせてもらうつもりだ。
 手を出すなとは言われていないからな。

「よし、出発は明朝として……今のうちに魔道具と消耗品の補充をしておくか」

 互いにソファから立ち上がり、魔道具を購入するために受付へと足を向ける。
 とそのとき、イルリが丁度良く俺たちの許へと駆け寄ってきた。

「あの! 微力ではありますが、当ギルドからも応援を出させてください!」
「応援?」
「はいっ!」

 そう言ってイルリが連れてきたのは、小柄な女性だった。

「そっちがリジンね? で、こっちがロザリーね?」

 すぐ傍まで近づき、俺の顔を見上げる。同時に、ロザリーとも目を合わせた。
 ふんふんと頷き、口元を緩めると、その女性は右手を握って左手を広げたままくっ付け、礼儀正しくお辞儀をしてみせる。そして、

「あたしはレイ・ファン。二人とも、よろしくね!」

 白い歯を見せて自己紹介をするのだった。