「どういうことだ?」

 山賊は倒したはずだ。まさか残党が居たのだろうか。
 イルリに訊ねると、詳しく話してくれることになった。

 あのとき、俺たちは交易馬車の御者と乗客に成り済ました奴らを一網打尽にした。
 てっきりそいつらが山賊の振りをして悪事を働いていたと思い込んでいたが、そうではないらしい。

 山賊もどきたちは、ここ最近悪さを始めたばかりらしく、ギルドが指定依頼を出す山賊とは全くの別物だったのだ。

 数日前に谷あいで山賊の一味を討伐したとの情報が広まったせいで、本物の山賊たちの反感を買い、油断した交易馬車が狙われたのかもしれない。

「……ロザリー」
「ええ」

 ロザリーと顔を合わせる。どうやら考えていることは同じのようだ。
 互いに目で確認し合うと、俺は腰鞄の中から財布を取り出し、そこから数枚の大銀貨を掴んだ。
 同様に、ロザリーも自身の財布から硬貨を取り出すと、それを受付の上に置く。

「あ、あの……これは?」

 意味が分からず、イルリは困惑顔をしている。

「山賊討伐時に貰った報酬だ。少し足りないのは……すまん、使ってしまった」
「! う、受け取れません! お二人は現に、山賊行為をしていた者たちを倒したではないですか!」

 状況を理解したイルリが、慌てた様子で断りを入れる。
 だが、それでは俺たちの気持ちが収まらない。

「それは確かだが、俺たちが倒したのは別の山賊……つまり、山賊違いだ。だからこの報酬は一旦預けておく」
「い……一旦、ですね?」
「ああ」

 イルリは嘘か真か確かめるように訊ねる。
 もちろん、嘘は吐かない。

「でも、報酬をわたくし共に預けて、お二人は何をなさるおつもりですか?」
「決まってるだろ。山賊退治だよ」

 イルリの疑問に対し、そう宣言してやった。