ロザリーと共に二人部屋に寝泊まりするようになってから、一週間が過ぎた。
 寝不足になるかもしれないと不安だったのも初日だけで、案外ぐっすりと眠ることができた。何事も慣れだな。

 その一方、ロザリーは何故か不満顔が多くなったが、理由は話してくれない。
 相変わらず考えていることが分かり難いが、それがロザリーなのだと自分の中で納得するようになった。

 今日も朝一番にロザリーと二人で依頼掲示板の確認をして、山の中へと潜っていた。そして無事にリンツ街へと戻り、依頼分の魔物の死体を引き渡し、問題なく報酬を受け取ると、その足で食堂部に移動して反省会を開くことになった。

「一応、依頼は達成したし、想定よりもたくさん倒すことができたのは良しとしよう。ただ、群れの対処がお粗末だったな

 山中で遭遇したのは、依頼対象の魔物だけではない。リンツ街周辺の山脈としては珍しく、灰色狼の群れと遭遇した。

 一体だけでも相当面倒な相手だというのに、それが群れを成して姿を現したのだ。その数、なんと十体以上だ。鉄級や木級の新米冒険者のパーティーでは手も足も出ないだろう。

 灰色狼は嗅覚が鋭く、臭い消しをしなければならない。故に、足音を消しても効果がなかった。

 だが、こちらも周囲に気を張りながら探索していたので、灰色狼の気配を察することができた。ここでロザリーが機転を利かせる。
 戦闘し易い場所へと誘導し、ワザと囲まれるように仕向けたのだ。

 襲い掛かる寸でのところで先手必勝、ロザリーの広範囲風魔法で数体まとめて息の根を止めたあと、残りの個体を一体ずつ仕留めていく。

 一体倒せば、他の個体が怯む。そこで更にもう一体と倒し、ロザリーと俺は並んだまま一方向へと全力で駆け出した。

 目の前の灰色狼の首を斬り落とし、囲まれた状況からあっさりと脱すると、後ろを振り返って戦闘態勢を整える。しかし、残った灰色狼たちは恐れをなしたのだろう。一体残らず、尻尾を巻いて逃げてしまった。

 依頼対象の魔物ではないが、灰色狼の毛皮は高く引き取ってもらえる。できることなら一体も逃すことなく倒しておきたかった。

 それ故の反省会だ。
 次に生かすために、ロザリーと俺は互いの案を口にし合った。

 ……にしても、この充足感はなんだ?
 ふと、思ったことだが、この数日間、楽しくて仕方がない。

 つい先日までは、冒険者業を引退するか否か模索していたわけだが、ブレイブ・リンツを結成したことで、その悩みが一切無くなった

 それもこれも全ては、ロザリーが俺に声をかけてくれたおかげだ。
 あくまでも偶然が重なっただけに過ぎないが、俺はその偶然に心から感謝した。

 ブレイブ・リンツは、良いパーティーになる。
 確信めいたものを感じた。

 と、そんなときのことだ。

「失礼します!」

 何者かがギルドに顔を見せたかと思うと、その人物は慌てた様子で受付へと向かう。
 そして何事かを伝えると、再び外に出て行ってしまう。

 話を聞いたであろうイルリの表情は浮かない。
 一体何を聞かされたのだろうか。

「イルリ、何があったんだ」

 心配になり、ロザリーと俺は食堂部から受付へと足を向ける。すると、イルリは俺たちと目を合わせるが、すぐに下げてしまう。それから苦々しい表情でポツリと呟く。

「モルサル街からリンツ街へと続く道中の谷あいで、交易馬車が襲われてしまいました」
「誰にだ」
「……山賊、とのことです」