リンツ街に戻ったあと、俺たちはギルドへと向かった。
 受付に居るイルリと顔を合わせると、軽くお辞儀をする。回収袋を肩から下ろし、専用の台上に置いた。

「無事の御帰還、何よりです。それでは確認させていただきますね」

 回収袋の中身を確認し、イルリは依頼書と照らし合わせていく。

「二角兎が五体と、山牙蛇が一体で、お間違いないでしょうか」
「ああ、それで合ってる」

 回収物が魔石だけの場合、それが何の魔物の物か詳しく調べる必要があるが、今回は死体を丸ごと持ち帰っている。
 故に、イルリは回収袋の中を見てすぐに判断した。

「ブレイブ・リンツのリジン様、並びにロザリー様、依頼達成を確認いたしました」

 その言葉を聞いて、ロザリーと俺はようやく安堵する。
 初陣戦は問題なく依頼達成として幕を閉じることになりそうだ。

「依頼書の分は一体ですが……残りの討伐分も依頼書と同じ額で引き取らせていただいてもよろしいですか?」
「それはこちらとしても助かるが……いいのか?」

 イルリの提案を受け、思わず聞き返す。
 依頼とは別枠での提出となれば、それは常設依頼として査定されることになる。それだと通常の依頼報酬よりも少なくなるので、イルリの申し出は逆に有り難い。

「はい。わたくし共ギルドが成り立っているのは、冒険者様が居てこそですので、多少の融通は問題ありません。ギルドマスターも、きっと許してくださるはずです」

 イルリは悪戯っぽく笑う。
 この町のギルドマスターと顔を合わせる機会があれば、感謝の言葉を口にすることにしよう。

「では、計算し直しますので、もう少々お待ちください」

 そう言われて俺たちはロビーのソファに腰掛ける。
 それから暫く待っていると、再びイルリから声をかけられた。報酬額が決まったのだろう。

 受付に戻ると、イルリがカウンターの下から硬貨を数枚取り出し、トレイの上に報酬を置いた。

「二角兎五体と、山牙蛇一体で、大銀貨二枚になります」
「大銀貨二枚も……!」

 予想以上の報酬額に、ロザリーと俺は驚いた。
 内訳としては、二角兎が一体に付き銀貨三枚で、山牙蛇が銀貨五枚だ。合計で銀貨二十枚分というわけだ。

「この度は本当にお疲れさまでした。今後とも当ギルドを……いえ、この町をよろしくお願いいたしますね」

 報酬を受け取り、イルリと言葉を交わしたあと、二人して食堂部へと場所を変える。
 初陣戦の成功を祝って打ち上げだ。

 大銀貨二枚分の収入があったとはいえ、本来であれば散財するべきではないのかもしれない。
 だが、今日は特別だ。
 ロザリーと俺は互いに食べたいものを注文し、腹が一杯になるまで堪能した。そして一時間ほどが経過した頃、「今日は解散するか」と声を上げ、俺は席を立つ。

 すると、ロザリーが俺の腕を掴んで止める。

「なんだ?」
「部屋は一緒にしないの?」

 真顔で聞いてきた。

「い、いきなりどうした」
「いきなりじゃないわ。だって、私たちはパーティーを組んだのよ? それなら部屋も一緒にした方がいいと思うの。宿泊代だって馬鹿にならないし、たくさん稼いでいるならともかく、まだ私たちはパーティーを組んで一日目よ? 貴方だって手持ちは少ないはずだし。違うかしら?」

 捲し立てるようにロザリーが言葉を並べる。
 その勢いに圧倒されそうだ。

「いや、それはそうだが――」
「だったら、私の提案を呑みなさい」
「しかしだな、他にも仲間が居るなら分かるが、男女二人でというのは……」
「あら? 貴方、私に手を出すつもりなの?」
「出すわけない!」

 思わず否定する。
 ロザリーが目を細めて俺を見た。

「そう、それならいいじゃない。というわけだから決まりね。二人部屋の空きがあるか聞いてくるわね」
「お、おい……」

 軽い足取りで、ロザリーは受付へと向かった。
 その背中を見送りながら、俺は力なくため息を吐く。

「上手く丸め込まれた感じがする……」

 どうかどうか、二人部屋の空きがありませんように……。