二角兎の角をもぎ取ったあと、死体を回収袋に詰め込んで立ち上がる。
 これで二角兎の討伐依頼は達成だ。

 しかしまだ、入山してから三十分も経っていない。それにロザリーに至っては何もしていないので、このままリンツ街に戻っては物足りないだろう。

「せっかくだ、二体目を探そう」
「ええ」

 小さく頷く。
 もちろん、対象となる魔物は二角兎である必要はない。他の魔物と遭遇すれば、そいつを倒すまでだ。

 回収を終えた俺たちは、再び山の中を慎重に進むことにした。
 そして暫くすると、新たな二角兎を発見する。

「ロザリー、次は任せてもいいか」
「見ていなさい」

 そのつもりだったのだろう。
 ロザリーは小声で短めの呪文を唱える。それから左手の人差し指を遠くにいる二角兎へと向けると、魔力を解放する。

 瞬間、人差し指の先から、目には見え難い何かが一直線に放たれた。
 寸分違わず、それは二角兎の頭部へと直撃し、衝撃に耐え切れずに倒れてしまった。

「凄いな……風魔法か?」

 聞くと、ロザリーは頷いた。

「空気を圧縮して飛ばしたの。視認し難いのが利点ね」

 確かに、指先から放たれる際、少し空気の流れが変わって歪みを作る程度だったので、これを避けることは容易ではないだろう。

「難点があるとすれば、威力が弱いことかしら……ほら、二角兎ですら、気絶で済んでいるでしょう」

 空気の塊が直撃した二角兎は、その場で伸びている。だが、死んではいない。

「いや、十分すぎるさ」

 ロザリーは二角兎の傍へと歩み寄ると、改めて風魔法を唱える。
 今度のは風の刃を作り出すのか、そのまま二角兎の首元を綺麗に切り落としてみせた。

「いい腕だな」
「そう?」
「ああ、というか……杖は使わなくてもいいのか」

 山賊もどきと対峙したときは杖を持っていたが、ユスランたちに水魔法を使ったときは使用していなかったのを思い出す。

「ダンジョンに潜るときや強敵を相手にするときは使うけど、この程度の魔物なら必要ないわ」

 杖は魔道具の一種で、魔法を発動する際の媒介として用いられる。これを利用することで、魔法の暴発や不発を防ぐ役割を担っている。
 階級の有無に関わらず、魔法を使うほとんどの冒険者が媒介として愛用している。

 しかし、いざ戦闘中に手放してしまったり、とっさの判断を迫られたりしたとき、素のままで魔法を発動することが難しくなるので、注意が必要だ。

 その点、ロザリーは普段から杖無しで魔法を発動しているので、その心配は無さそうだ。

「ねえ」

 とここで、ロザリーが声をかけてくる。

「二体目を倒したわけだけど……これで終わりとは言わないわよね?」

 その瞳は期待している。
 まだまだ、物足りないと語りかけている。

「……そうだな。今日はとことん狩り続けるか」

 だから俺は、ロザリーの期待に沿った言葉を返した。
 すると、ロザリーは思った通りにしっかりと頷くと、口元を少しだけ緩める。

 その顔は、思わず見惚れてしまうほど魅力的に見えた。