二角兎討伐の依頼書を手に、ロザリーと俺は受付へと移動する。

「これを頼む」
「畏まりました。ええと……二角兎の討伐依頼ですね」

 イルリに依頼書を手渡し、確認してもらう。

 二角兎を一体討伐。それが今回の依頼内容だ。
 やはりと言うべきか報酬は少ない。けれども二体以上ではないので、気が楽だ。

 二角兎自体、非常に見つけ難い魔物ではあるが、探し方は何通りか存在する。それに巣を見つけることができれば比較的楽に倒すことが可能だ。

 ユスランたちは失敗に終わったが、新米冒険者でも入念に準備を行っていれば、問題なく依頼を達成できるだろう。

「それでは本日より期限は三日となります。ブレイブ・リンツのお二方のご武運をギルドよりお祈り申し上げます」

 受注完了し、イルリから声をかけられる。
 依頼の期限は三日間。つまり、かなりの猶予がある。

 しかしもちろん、のんびり構えるつもりはない。
 この依頼はブレイブ・リンツの初陣戦に当たるものだ。故に、できれば今日のうちに二角兎を倒しておきたい。

「さあ、準備をしましょう」
「準備?」
「ええ。戦闘に役立つ魔道具を買いに行くのよ」

 俺は、やる気に満ちていた。
 そしてそれはロザリーも同様らしい。

「魔道具か……金は使うが、備えあれば患いなしだな」

 確かに、魔道具の類を所持していれば、戦闘時に優位となるだろう。
 手持ちは多くないが、出鼻を挫かれるようなことがあってはならない。ここはロザリーの案に乗るべきだ。

「イルリ、魔道具店の場所を知りたいんだが……」
「魔道具をお求めですか? リンツ街では魔道具を製作する方は居ますが、店舗はございません」
「店舗自体が無いのか……」

 それは困ったな。
 魔道具を製作しているという人物に直接会いに行き、交渉でもしてみるか。

 思案していると、イルリが話を続ける。

「その代わりと言っては何ですが、製作した魔道具は当ギルドに卸していただき、販売しております。ですのでご覧になりますか?」
「なるほど、そういうことか」

 リンツ街では魔道具を一切手に入れることができないかもしれない。
 そんな未来が待っていると思ったが、杞憂に終わったようだ。

 見せて欲しいと返事をすると、イルリは魔道具のリスト用紙をカウンターに置いた。
 色んな種類の魔道具に、在庫の数や、取り寄せる場合の目安日数など、細かく書かれてある。

 リンツ街周辺には凶暴な魔物が少ないとはいえ、さすがはギルドだ。リストアップされた魔道具の種類は実に豊富だった。
 今までに一度も見たことのない名前の魔道具まで置いてある。

 ……というか、これはつまり魔道具師が凄いってことだよな。一人でこの量を製作しているのだろうか。だとすれば、その腕は相当なものだ。

「ロザリー、何を買うか決まったか」
「ええ。これを六つ、お願いするわ」

 どれを買うべきか悩む俺を他所に、ロザリーは初めから決めていたらしい。
 リストに載った魔道具の中からロザリーが指さしたのは、回復ポーションだった。

 回復ポーションは、いわゆる万能薬だ。
 飲めば体力回復することができるし、傷口にかければ治癒してくれる。これを常備することができれば、まさにヒーラー要らずだ。
 品質や種類にもよるが、中には瀕死の状態から完全回復できるものまであるらしい。冒険者にとっては定番の魔道具と言えるだろう。

「回復ポーションか、確かに必要だが……六つも要るか?」

 さすがに多すぎるような気がする。
 丈夫な小瓶に入っているとはいえ、確実に荷物が増える。嵩張るし、衝撃の大小によっては割れる可能性もあるだろう。
 それに何より、今回の相手は二角兎だ。そこまでする必要があるのか疑問を抱くが、

「万が一に備えて、貴方と私で三つずつ」

 ロザリーは目を細めて口を開いた。

「いい? 何が起こるか分からないのが冒険者なの。どんなに強くても、怪我をして死んでしまったら意味がないでしょう?」
「……確かにそうだな」

 忘れていた。
 俺たちはアタッカー二人だけのパーティーで、タンクやヒーラーは居ないのだ。
 改めてそう考えると、三つずつでも少なく感じる。

「イルリ、お願いできるか」
「はい、それでは裏から持ってきますので、少々お待ちください」

 ロザリーの金言を授かり、俺は回復ポーションを六つ購入することにした。