リンツ街のギルドにも、食堂や宿屋が併設されていた。その点はモルサル街と変わらず、便利なので有り難い。

「ロザリー、よかったら飯を食わないか」

 ここに至るまで、共に旅をしてきたということもある。旅は道連れだ、せっかくなのでロザリーを食事に誘ってみた。すると、

「……別に構わないけど」

 無事、食事の誘いに乗ってくれた。

 食堂部分に移動して、互いに食べたいものを注文する。
 運ばれてきた料理を口にしてみる。

「美味いな」
「ええ、悪くないわね」

 モルサル街の食堂と比べても遜色ないメニューの豊富さと美味しさだった。

「リンツ街に来るのは初めてだが、思っていたよりも大きい町だな」

 食堂のおばさんと世間話をした際に仕入れた情報だが、リンツ街の人口は大体五千人ほどらしい。

 ただ、リンツ街のギルドを拠点に活動する冒険者は、ソロやパーティーを全て含めて三十名にも満たない。

 それは恐らく、リンツ街の周辺に目ぼしい魔物が生息しておらず、冒険者として稼ぐには街から遠くまで行かなければならないのが原因だろう。

 リンツ街で冒険者として生活するには、モルサル街から辿ってきた道を戻り、山脈から谷あいに潜む魔物を倒すことになりそうだ。

「ロザリーは……これからどうする予定だ」
「わたしは冒険者よ。依頼を受けて達成する。それだけよ」

 それが当然だと、ロザリーの表情が物語る。
 確かにその通りだ。俺たちは冒険者なのだから、それ以外に道はない。

「――で、貴方はどうなの」

 今度は逆にロザリーから訊ねられた。

「俺は……少しゆっくりするかな。もちろん、二日か三日ぐらいだけどな」

 山賊もどきを討伐したことで臨時収入が入ったとはいえ、手持ちが少ないことに変わりはない。

 休んでばかりいられないのが、稼げない冒険者の悲しいところだ。

 ただ、それにしたって疲れた。
 この数日だけで色々あって精神的にも堪えている。

 二年間を共にしたパーティーをクビになり、新米冒険者パーティーには喧嘩を売られるし、モルサル街には居られなくなった。そして今回の騒動だ。

 リンツ街へと拠点を移すことになったわけだが、ここでも冒険者として生きていくことができなくなれば、あとはもうエルフの森に入るしか道はないか。

 無論、そんなことをすればエルフが放つ矢で串刺しになるだろう。

「ロザリー、きみがいてくれたおかげで、無事にリンツ街まで辿り着くことができた。良い旅にしてくれて感謝する」
「……貴方って、本当に感謝ばかりするのね」

 呆れたような表情のロザリーが席を立つ。

「暫くは私もこの町に居るから、何かあれば言いなさい。その……話し相手にぐらいなってあげるから」
「話し相手か……ああ、感謝する」
「だからまた……」

 ため息を吐くロザリーだが、それ以上は何も言わずに食堂から立ち去る。
 俺はその背中を見送り、一息吐くのだった。