その日、ローテルハルク領と王国との全面戦争を回避することに成功したあたしは、領民たちを交えた公爵家主催の盛大なパーティーを開いた。

 民たちの表情は明るく、武器を手にいきり立っていたのが嘘のようだ。
 この笑顔を守ることができたのは、あたしにとっても喜ばしい限りだ。

 一歩、いや一手間違えるだけで、ここに居る全ての人たちが死んでいたかと思うと、今があるのは奇跡と言っても過言ではないだろう。

 そう考えてみると、サイダールが功を焦ってけしかけてくれたのが幸いした。

「聖女様ー! あの演説っ、お見事でした!」「おいバカ! どっちだよ! ここには聖女様が二人居るんだぞ!」「どっちの聖女様でもいいよ! レミーゼ様もフレア様も本物の聖女様なんだからよ!」「確かに! ちげえねえ!」

 パーティーの最中、あたしはずっとフレアと一緒に居たわけだけど、民たちが次から次へと声をかけてきて、息つく暇もなかった。

 まあ、それ自体は構わないんだけど、問題は声掛けの中身だ。

「いや~、それにしても驚きですよ! まさか聖女様が……ああいや、レミーゼ様が、あのフレア様とこんなに仲良くなられるとは!」「そうそう、俺もびっくりしたんだよ! だってフレア様と言えば、レミーゼ様にとって……なあ!」「俺は絶対に手を取り合うことはないと思ってたね! だからその予想を覆したレミーゼ様とフレア様は、誰が何と言おうと正真正銘の聖女様だぜ!」

 どいつもこいつも、言いたいことをずけずけと言ってくる……。

「……あ、あの、レミーゼ様? わたしたちって、そんなに……仲良くなれないと思われていたのでしょうか?」
「え? あー、……あはは、そうよねー、不思議なことを言う人ばかりであたしもびっくりしているわ」

 言うのはいい。本当のことだから。
 でもせめて、フレアが居ないところで言ってください。

 何のことを言っているのか説明できなくて困るでしょうが。

「……あ、ところでレミーゼ様。一つお尋ねしたいのですが、わたしと共に宿に泊まっていた王国兵の方々は、今どこに居るかご存じでしょうか?」
「王国兵……? あぁ、言われてみれば何人か居たわね」

 ふと思い出す。
 そう言えば、フレアにはサイダールの他にも同行する王国兵がいた。
 地下牢にも捕まっていなかったし、いったいどこに居るのだろうか。

「ちょっと、レバスチャン。聞きたいことがあるんだけど」
「彼らでしたら、同じ宿で休んでおられますぞ」
「え? ホントに?」
「一度は領の外に追い出しましたが、お嬢様がフレア様の誤解を晴らしましたからな。非礼を詫び、再度寛いでいただいております」

 初耳だった。
 あたしとフレアが手を取り合っていた裏で、レバスチャンも独自に動いていたようだ。

「そっか、ありがとね」

 礼を言うと、レバスチャンは当然のことをしたまでです、と畏まった態度を取る。
 我が家の爺は仕事のできる男だよ。持ち場を離れたオットンにも見習ってほしいものだ。

 とはいえ、そのおかげで今があるわけだけど。

「あとで会いに行こうかしらね。あたしも直接謝りたいし」
「それなら、わたしもお供しますね!」
「フレアが居れば心強いわ。頼りにしてるからね、親友」
「はい!」

 結局、このパーティーは日を跨ぐまで続いた。