城に到着すると、まずは浴室に案内された。
 ドレスに着替えたりお花を摘みに行くことはあったけど、素っ裸になるのは、この世界で目覚めてから初めての経験だ。

「うーん、凄い……あたしとは比べ物にならない」

 いや、ね。
 そういったことで勝ち負けを付けるというのは、心の底から下らないと思っている。
 そんなことで人生の価値が決まるわけじゃないからね。

「……」

 でも、確実に負けてる。……くっ!

「お嬢様~! 入りますね~!」「失礼しま~す!」「きゃ~、相変わらずお美しい!」
「え? はっ? ちょっ!」

 鏡の前で生まれたままの姿を眺めていると、脱衣所の扉が勢いよく開いた。
 そして侍女と思しき女性たちがぞろぞろと入ってくる。

 いやいやいやいや!
 何してんの、あたし入ってんですけど!?

「はーい、それでは今日もお背中お流ししちゃいますね~」

 今日も? 背中を流す?
 レミーゼ、あんたいつも体を洗わせてたのか!?

「ひ、一人で! 一人でできるわ!」
「え~、なに言ってるんですか、お嬢様~?」
「そうそう、いつもは背中に手が届かないからしっかり綺麗にして~って言ってるのに~」

 言ってない!
 少なくともあたしは言ってない!
 レミーゼ、あんた恐ろしい子だよ、ホントに!

 あたしがレミーゼの姿で何を言っても、侍女たちは聞く耳を持たない。というか右から左に聞き流している。
 逃げ場を塞いで、両手をがっしりと掴まれる。なにこれ、あたし捕まった宇宙人?

「やめっ、やめっ、ちょ、そこは! これダメだから! いやいや、そこは自分で洗う! だから触ったら……あああーっ!」

 抗議の声は届かない。
 侍女たちにされるがまま、体の隅々まで洗われてしまった。

 もう、お嫁にいけない……何言ってんだあたし。

「ううううぅ……」

 ようやく侍女たちから解放されたあたしは、湯船に足を入れて、そのままゆっくりと体全体を沈めていく。
 体を洗ってもらっておいてなんだけど、既にへとへとだ。なんでお風呂に入って疲れなくちゃならないんだ。

「う、……はぁ」

 でも、疲れが取れる。
 お風呂……気持ちいい。この気持ち良さは、現実と同じだ。

 いや、現実の比じゃないか。
 だってこんな大きなお風呂、一度も入ったことがないもん。

 親と一緒にスーパー銭湯に行ったことがあるけど、それよりも大きいって……どうなってんの?
 公爵家、恐るべしだよ……。

 侍女たちがわらわらと脱衣所に入ってきたときは驚いたけど、それに比べて湯船の中は天国だ。このまま、もう一度眠ってしまいたくなる。

 まあ、そんなことをしたらのぼせてしまうから寝ないけどね。

「……うん。寝ない……寝ないから……」

 でもダメだ、この空間は人をダメにする。
 ついつい、だらっとしてしまう。全身の力が抜けて疲れを取ってくれる。

 だから結局、あたしは長風呂することになった。
 そして数十分後、のぼせ上がったあたしを侍女たちが湯船から引っ張り上げるのだった。