あの日、真波と致してから僕は連絡頻度が減っていった。
 彼女が働くスタバにも行かなくなった。
 今日もまた彼女からの連絡に既読をつけずスマホを閉じる。
 学校ではいじめられ、もうどこにも居場所がないような気がした。
 一体、どこに居場所があるのだろう。
 テスト勉強のために少し離れた図書館に向かった。
 数学の範囲の問題を真っ白のノートに書き写し、解いていく。
 解き終えてはまた何度もやり直す。間違えたところを解き直す。
 理解していけばいくほどに、答えがあることを恨む。
 必死になって解いているはずなのに、頭の中にこびりついて離れないあの日の出来事。
 忘れられないキスの味。離れない言葉。
 彼女の気持ちにも答えがあったなら、僕は正解を選べるだろうか。
 シャーペンの芯が折れる。
 集中力が切れる。
 ペンを机に置いて、スマホで時間を確認する。
 二時間が過ぎていた。夕方の七時が過ぎようとしていた。
 もう少し勉強しようと考えたけれど、集中できない気がして、腕を伸ばしてストレッチをする。
 次のテストも高得点を出して進路への不安を解消しておきたい。
 大学に行こうが就職しようが学力は大事なのだから。
 荷物を片付けていると着信がなった。
 親がわざわざ連絡してくるとは思えない。スマホの画面を伏せておく。
 しかし、もう一度連絡が来てしまって、イライラと共に電話を切る。
 連絡の相手は、真波だった。
 あの日以降、どうやって接したらいいのかわからない。
 いつも通りに話したいのに、行為をしてしまってからまともな判断ができていない。
 僕は、真波が好きだったのか。
 だとしたら、なぜ彼女を拒んでしまったのか。なぜ恐怖にも似たドロッとした感情を抱くのか。なぜキスを思い出すたび吐き気をもよおすのか。
 LINEの通知がきた。
『あいたい。あってはなしたいよ』
 通知を切って乱暴にスマホをポケットにしまう。
 彼女に怒りを感じているのか。
 愛のない行為に不満を感じているのか。
 彼女は一体、誰のことを考えてあんな言葉を発して、誰の面影を寄せながら僕を抱いたのか。
 根拠もなく否定し続ける僕はきっと阿呆で、世間はきっとこんなもの。
 馬鹿を見るよりも先に彼女との関係を切ってしまった方が愚かな自分を受け入れなくて済む。
 それなのにどうして、彼女のことを今も考えてしまうのだろう。
「阿呆か……」
 ボソッとつぶやく。
 人の少ない図書館を見渡す。
 帰ろう。
 さっさと寝よう。
 カバンを肩にかけて、歩をすすめた。

 家に帰ると牧田から連絡が来ていた。
『まだ犯人わかんないわ』
 二週間近く前、坂口とスタバに行った話を相澤たちが知っていた。
 相澤に告げ口したのは誰か探ってほしいと彼に頼んだのだ。
「マジか」
『そもそもさ、坂口ってなんでいじめられてんの?』
 僕も感じていた疑問だ。
 相澤本人から直接聞きたいが、いじめられている分際で何が聞けようか。
 ぶん殴られてしまいだ。
「それも知りたいけどなぁ」
『てか、俺らがクラスで話さないようにする必要ある?話しかけにいっていい?』
「無理だろ。いじめられるぞ」
『変な心配すんなよ』
「どうせ、部活もちゃんとやってないし」
『気にすんなよ』
「気にするだろ」
 それ以上、既読はつけずにスマホを閉じた。
 学生なんて勉強だけしておけばいいのだ。
 恋愛なんかに現を抜かしてないで勉強をしたらいいのだ。
 いじめも恋愛もみんな暇なのか。
 学生ならば、勉強しよう。
 机に教材を置き、ペンを取る。
 脳裏をよぎったのは、真波のか弱い声。
 あの時、どんな思いでハグをして、キスをして、行為に及んだのだろう。
 コップに入った水を飲み、悩みも一緒に胃のなかに流し込む。
 それでも集中できなかった。
 彼女のことを考えるとどうしても声が聞こえてくる。
 電気を消して、ベッドに潜り込む。
 なかなか寝付けなかったせいで、三時間も眠ることができていない。
 学校に向かう。
 スマホに着信がある。
 無視して、ポケットにスマホを突っ込む。
 こんなモヤモヤを抱えたままではいけない気がするのに、対処法が思い浮かばない。
 もう三日は彼女とのLINEに既読をつけていない。
 学校の最寄駅に到着する。
 重い足を前に進める。
 こんな思いをしてまでなぜ学校に行かなければならないのだろうか。
 他のいじめられている学生もこんな思いの中学校生活を送っているのだろうか。
 そもそもいじめなんてものは、正しいのだろうか。
 そんなもの正しいわけがない。許されていいわけがない。
 なのに、どうしていじめが許されているのだろう。
 気が滅入る。
 誰か、助けてほしい。
 坂口も、こんな思いだったのだろうか。
 あぁ、なんだか坂口が僕と話して楽しそうにしていた理由がわかった気がする。
 気のせいか……。
 勘違いしているだけだ。本当のところは何も知らない。
 教室に到着するとすぐ席に着いた。
 前の前に三森が立った。
「ねぇ、