部活動を行っていく上で必要なのは、団結力だと俺は思う。
 この世の中に必要なのは協調性であり、主張は必要ないと考えていた。
 しかし、主張というものはいつだってどこかで行われている。
 俺が、サッカー部の部長になった時も立候補したのが始まりだった。
 当たり前に部活動推薦で入学して、その実力とともになるべくしてなったと先輩方にも言われた。
 新人戦での良い結果を残して、評価されたことを覚えている。
 必要なのは努力じゃない。団結力だ。
 パスを回す。相手の心理の裏をかく。
 学校で自ら学ぶのはそういった心理学だ。
 授業で学ぶような主要五教科よりも必要だと考えている。
 心理学を駆使していけば、団結していく上でやりたいようにチームが出来上がる。
 今のサッカー部は、俺の求めたサッカー部と言える。
 他に主張する部員がいなければ、この部活は完璧だとそう思っていたのだが、近頃、その輪を乱すものがいると感じた。
 誰が何をしたのかまではわからない。
 だから、部長として顧問に話を聞きにいく。
「部の輪が乱れてます」
 わかりやすく荒れているわけじゃないけれど。
「え!?マジか!?」
 顧問は狼狽えていた。この人はオーバーリアクションで有名だ。
「誰かが何かをしています。どうしますか、顧問」
「えー、やだー。最悪ー」
「子供みたいなこと言わないでくださいよ」
 職員室の角、顧問の隣の椅子が空いていてそこに座るよう促される。
 ちゃんと話し合うつもりみたいだ。
 オーバーなことは言わないほうがよかっただろうか。
「今来てない部員は、洋馬と牧田がほとんどだっけ」
「そうですね、洋馬に関しては新人戦以降きてないです」
「一年生も入ってきたし、あの二人がちゃんと部活に来てくれないと一年の士気が下がっちゃうよなぁ。ぴえん」
「ふざけないでもらっていいですか?」
 こいつ、年齢の割に若者言葉を使いたがる。
 まさかぴえんが死語だとは思ってないのだろうけど、副顧問が若いからそんな言葉を覚えたのかもしれない。
「きまZ」
「おい」
 ごめんごめんと次の言葉を待っている顧問。
「一年の士気はなんとかもっているんです。ただ、なんか違和感というか」
「その洋馬と牧田がこればいいんじゃなくて?」
「部長としてはそこじゃない気がしてます」
「……辞めよ、解散、散れ!」
「ウエハースチョコで手に入る推しのカードあげるんで」
「ナイス。続けたまえ」
 この気分屋がといいたくなるが彼のおかげで今、部長としてやりたいようにできている。
 二年がでた新人戦以降、練習メニューを増やすことができたのは、顧問のおかげだったりする。
 それによって士気が上がったのはいいことだった。
「あの二人以外か、そのほかの部員の中にブレイカーがいると思うんです」
「士気を乱す魔物?」
「そうです。その魔物を討伐しないといけない気がします」
「……」
 考え込むような仕草。嫌な予感がして先手を打つ。
「今回の試合で牧田を出すのはなぜですか?」
「それは、まぁ、副顧問の助言に則って、お墨付きみたいなもんだし」
「副顧問より見ているはずの俺の意見を否定するんですか?」
 強めに出ると顧問は気まずそうにえんえんと泣くふりをする。
 こいつ、普段の調子でおちゃらけやがって。
 教師と仲良くしておけば、大学進学等に良い影響を与えてくれると聞いたことがあるために顧問に乗っかったりするわけで。
 ここまでくると普通にぶっ飛ばしたくなる。
「顧問は、俺たちを全国まで連れて行きたくないんですか?先輩たちから引き継いだ強さを残さなくてどうするんですか」
 俺自身は思ったこともないが、長く顧問をやっている彼にとっては揺らぐはずの言葉。
「その時はしょうがない。顧問の俺が悪かったということで」
「……あの」
「部長だから、少しは乗っかったけどさ、あんまり部長が部活の輪を乱しちゃダメだ。それはいじめと一緒だ。疑われた本人が、傷つくだろうし、それによって得られた絆が出来上がるくらいならサッカー部はなくなっていい」
「……」
「里中君、君は、勘が鋭すぎるところがあるようだね。そのおかげで士気は保たれていると思うけれど、そのままじゃいけないよ。伏せなきゃいけないことも多々あるんだ。君は、それを知っていくべきだ。もちろん、部活の輪を保つためにね」
 隠し事をされていると気づくには十分な言葉数だった。
 喋りすぎだ。
 そこまでいうのなら、暴いてやる。
 部の輪を乱す魔物を捕らえるだなんてやる気に火がつく。
 憶測で人を追い詰めなければいいというだけの話だ。
 証拠を揃えればいいだけなのだから。
 少し時間をかけてゆっくりと見つけていこう。
 職員室を出ると牧田が廊下に突っ立っていた。
「どうした?」
「あ、部長。いえ、担任に用があって」
「そうか……。なぁ、牧田は次の試合出たいか?」
「え?えぇ、そりゃ、もちろん。だから、練習してるわけですし」
「そうだよな、期待してる」
 肩をポンポンと叩いて、歩を進める。
 疑っていることがバレてはいけないのなら、賞賛したらいいのではないだろうか。
 あ、と思い出したようにわざと声にする。
「牧田、お前の努力、顧問に伝えておいた。次の試合ではお前がやってくれるんじゃないかと思ってる、頑張れよ」
「はい」
 元気よく返事を返す彼。
 何を考えているのかまでは見当もつかないが、顧問の言葉の裏を読めば紐解けそうなものだ。
 今まで通り洋馬を部活に呼ぶのは続けよう。
 彼が部活に来てくれたら少しは状況も変わりそうだと踏んでいる。
 努力家の彼だ。
 きっといい結果を部活内に運んできてくれる。
 それが洋馬にとって良いことかどうかは置いておいて。
 牧田と仲がいいのも知っている。スタバに二人で行くくらいだ。
 運よく牧田の情報も得たいところ。
 彼の担任に聞くのはリスクが大きいし、彼自身に聞くのも危険だ。
 俺を警戒する洋馬に知られたら、部活に誘うことさえ出来なくなるだろう。
 全貌が見えないなか駒を動かすというのはこんなにも慎重にならざるを得ないのかと舌打ちしそうになる。
 将棋の桂馬のように飛び飛びに暴れて欲しいものだけど。
 ゲームのようにライフがいくつもあるわけじゃない。
 やはり長期戦を期待するしかないのだと思う。
 それか俺の勘が外れることを願うか。
 どちらにせよ、判断は急ぎたい。
 部長としての器の大きさが評価されている間に。