これは、今年の夏の話。

「あっつ…」

生徒玄関を出たところで、私は忘れ物をしたことに気づき、急いで取りに戻った。

「あー、もう下校時刻過ぎちゃう。急がなきゃ」

忘れ物をもって、階段を駆け下りていたその時。

ずるっ。

「ぅわっ…!」

やばい。落ちる。
無理っ、死ぬ―

走馬灯を見かけた。

あー…マジで死ぬかも…


ボフッ。


「っ…」

あれ、痛く、ない…?

恐る恐る目を開ける。

「大丈夫だった?」

え、

「桜木、先輩っ…?」

なんで?もしかしてここ、天国…?

目の前の人に困惑している私に、先輩はさらに追い打ちをかける。

「ケガ、してない?」

先輩の綺麗な目にのぞき込まれて、見つめられる。

「ひゃぁっ!!?だ、だだだ、大丈夫、ですっ…!」

「はぁっ…よかったー…」

ほっとしたように息をつく先輩。

…てか待って。私、先輩に抱きかかえられてる…?

予想外のハプニングに驚いて、私はあわてて立った。

「ごめんなさい、!」

「え、なにが?」

「先輩こそ、ケガ、とか、大丈夫ですかっ…?」

「俺はなんともないよ、美織ちゃんにケガがなくてよかった。」

美織ちゃん…?

「な、何で私の名前知って…?」

先輩は驚いたように目を見開く。

「え、だって委員会同じだったじゃん。美織ちゃんだって、俺の名前知ってるでしょ?」

「あ、そうだった…」

「それに、よくサッカー部のこと見てるでしょ」

「ひぇっ…!ば、バレてたんですかっ…」

もう、見れないじゃん…!

「あはは、知ってたよー。あと…」

「あと、?」

「あ、やっぱなんでもない。じゃあ、気を付けてね!」

え、まって。まだ、ちょっと、一緒にいたい…!

「あ…っ、あのっ、先輩!」

気が付いたら、私は先輩を呼び止めていた。
先輩はびっくりしたように立ち止まって、振り返って私を見た。

「ん?どうした?」

どくん、っと大きく心臓が跳ねる。

「えっと…これからも、その、サッカー…、頑張ってくださいっ…!」

先輩は目を見開いて、それからすぐににこっと笑顔になり、

「ありがとね。これからも応援よろしく!」

と言ってその場を走り去っていった。