「美織、今日一緒に帰ろ!」
「もちろん。」
今日は部活のない日だから、桜木先輩を見ることはできない。
でも今日はもう十分。あんなに見れたのは初めてってぐらいだったもんね。
本当に、いつ見てもかっこいい。
彼女になれたらいいな、なんてね…
「はぁ…」
「ため息?どうしたの、さっきいいことあったばっかなのに」
「いや…だって、きっと…」
「きっと?」
「彼女になりたいなーって思ってもさ、今年も、どうせいっぱい女子に囲まれてて、バレンタイン渡せないんだろうなーって…」
うつむいてそういうと、香苗は納得したように「ふうん」とつぶやいた。と同時に、ばんっと頭をたたいてきた。
「いった」
「いや、渡せよ絶対」
「え~無理無理」
「そんで、ついでに告ってこれば?」
「いやいや!無理だって!それに、フラれたら立ち直れないよ」
「そん時はたくさんあたしが慰めるから」
「うん。ありがとう」
二人で並んで駅へ向かう。降りる駅は一駅違うけど。
「ねえ、スタバ寄らん?」
「それ私も言おうと思ってた」
駅の近くにあるスタバに入る。
香苗はいつも決まって、抹茶のを頼む。私は甘いやつ。
「美織、またそれ?くどくないの?」
「うん。甘いの大好きだし」
「ねえ美織、バレンタイン何渡すか決まってんの?」
「え…決まってない」
どうせ、まだ来月だし。しかも渡せないと思うし…
「あーっ。今、どうせまだ来月だし…って思ったでしょ!」
ギクッ。
「図星でしょ?まったく、美織は甘いなあ」
「何が?」
「考えが、だよ!今のうちから決めとかなきゃ!」
「えー…そうなんだ…」
「美織は何あげたいの?」
何あげたいんだろう、私。
そんなこと、あんまり考えてなかったな…
「先輩に聞いてみれば?何が欲しいですか、って」
「うぇっ!?む、無理だよっ…!」
「インスタ繋がってるんでしょ?聞いてみなよ」
「繋がってる、けどっ…」
絶対に無理。先輩にメッセージ送ったことないし、まずフォローするのでさえドキドキしたんだから…!
「とりあえず、甘いもの好きか聞いてみな?ほら、スマホ出して」
「へ?今ぁ!?」
「早く。」
「今日、スマホ、忘れてきたんだよねぇ~」
「はーい嘘つかなくていいから。昼休みに触ってたもんね?」
「うー…」
香苗には嘘も通じない。
仕方なく、カバンからスマホを取り出した。
「え、なんて言えばいいの?」
「先輩は甘いもの好きですか?」
「はい」
香苗の言った言葉を丸パクリして、先輩にメッセージを送った。
「あー…ドキドキする…」
ピコンッ。
「ひぇっ…返信来たっ!!」
「早ー。一瞬じゃん。で、何て?」
「えと…甘いの、めちゃ好き!急になんで?だって」
「なんで、って…返しめんど」
「ど、どうすればいい?」
「素直に言っちゃえば?少しぐらい大丈夫よ」
「わかった…送ってみる」
”先輩にバレンタイン渡したいなって思ったので、、先輩は何をもらったら一番うれしいですか?”
「うわー恥ずかしくて死にそう」
「まだ死ぬな」
ピコン。
「あ、来た」
「えぇー!?うれしい!じゃあ待ってるね~!俺は、気持ちがこもってればなんでもうれしいよ~!…だって。あんた、言うようになったねえ。成長したじゃん。」
「あー、好きバレした…」
「いや、この返しはあっちも美織に気があるよ」
「いやいやいや、そんなこと…」
あるのかもしれない。
あったらいいな。付き合えたらいいな。なんてね…
「うえーニヤついてるー」
「ふぇっ!!?そんなことないもん!」
「めっちゃにやけてんよ。写真撮ったろー」
香苗が私にカメラを向ける。
「ちょ、やめてよー!」
きゃはきゃはと、笑い声が店内に響く。
すると店員さんがこちらへやってきた。
「あのーお客様、もう少し声のトーンを下げていただいてもよろしいでしょうか?恋バナで盛り上がるのは重々承知なんですが…バレンタイン、応援してますね。」
「え」
「すみません、この子が大声出しちゃって…」
「いえいえ。ごゆっくりどうぞ」
「めっちゃバレてんじゃん!」
「帰ろっか。ね、うち寄ってく?」
「行きたい!」
「さっきお母さんからラインきたんだけど、ご飯食べる?」
「え、いいの?じゃあ、お言葉に甘えて!」
「了解です」
私の両親は共働きで、普段帰りが遅い。だから、夕ご飯は私が作るか、作り置きの物を温めて食べるかのどっちか。
香苗と知り合ったのは高1で、その時に香苗のお母さんが私の事情を知ってから、よく私に夕ご飯をご馳走してくれるのだ。
「香苗のお母さんの作るご飯、めっちゃおいしいんだよね~。あー、おなかすいてきた…」
「今日は肉じゃがだって。作りすぎたからぜひ持って帰って、だってさ」
「えー嬉しいですありがとうございます!!今日はいい日だなあ…」
「よかったね。このままうまくいくといいね。」
「そうだね…」