七海の企画だと思ってた……?


「あの、それはどういう意味ですか……?」

『実はチェリータルトのお店は、うちの奥さんのお気に入りのお店でね。桐山さんがうちに遊びに来た時に、うちの奥さんにスイーツが食べられるお勧めのカフェを教えてくれって聞いてたんだ』

「え、ちょっと待ってください。七海、田辺さんのおうちに遊びに行くほど仲が良かったんですか?」

『実は、うちの奥さんの実家が桐山さんの実家と同じ市内らしくて。会社の前でうちの奥さんが僕を待ってた日に桐山さんと一緒に退社をしたんだ。その時に会社の前で奥さんと会って。うちの奥さんに桐山さんを紹介したら、二人の気が合ってね。姉妹みたいな関係だったから、桐山さんが亡くなった事は、奥さんもかなりショックで……』


田辺さんが深いため息をついた。

病気で亡くなった事になっているから、実は自ら命を絶ったという事を知ったら更に嘆き悲しむだろう。

企画のチェリータルトが田辺さんの奥さんのお勧めのお店だったのなら、尚の事、七海の潔白を晴らさないといけない。


『黒澤さん。本日夕方16時以降、お時間ありますか?』

「あります」

『では、弊社にお越しいただけますか?』


田辺さんの問いかけに私はキュッと拳を作る。

ひとりで適地に乗り込んでも大丈夫だろうか。

だけど、相手に時間を与えてしまったら、覆せるものが覆せなくなるかもしれない。


「わかりました。本日16時にスノーライツ出版にうかがいます」

『お待ちしております』


田辺さんに返事をして、私は通話終了ボタンをタップする。

七海の企画については戦う準備ができた。

おばさんに許可をもらって、パソコンを借りて持っていこう。

後は、やっぱり七海の彼が誰だったのかって話だ。

正直、田辺さんの線も完全に消えたわけじゃない。

奥さんと仲が良かったって言っているのは七海から聞いたわけではなく、田辺さんから聞いた話だ。

真相はまだわからない。

ため息をつき、開いていたフォルダーを閉じる。

スマホのバックアップデータがないかと、パソコン内を探してみるが、残念なことに見つからなかった。


「え、何で?」


予想していなかった事に、思わず言葉に出てしまう。

パソコン内にあったのは、ドリプリに関係するサイトや画像などを保存してあるだけで、七海自身の写真などは何もなかった。