青柳さんは七海がいじめられていた事を知っていたという事なのだろうか。

……ただ、それを知っていたのなら、電話でなぜ話してくれなかったのかがわからない。

話したかったけれど話せなかった理由なんてないのに……。

それとも、いじめられていた理由が自分だったから、言い出せなかった?


「高校もなるべく地元の友だちがいないところがいいって言って、少し離れたところまで通っていたの。大学進学で家を出ると決めたのもそう。……ここにはいたくなかったみたいなのよ」


……そうだったんだ。

七海と初めて出会って自己紹介をし合った時に、実家から一時間半の距離なのにひとり暮らしって、少し変だなって思っていたけれど、そういう理由があったからだったんだ。

だって、うちの大学じゃなくても七海の実家から通える大学なんていっぱいあるし、学部だって似たような物、それ以上の物だってあったはずだから。


「大学に入ってね、友だちができたんだって、七海が嬉しそうに電話をしてきたの。友だちの話を聞く事なんて、小学校低学年以来じゃないかしら。……それが柚乃ちゃんなのよ」


おばさんは涙をぬぐいながらそう告げた。

小学校低学年以来、七海から聞く友だちの話でその友だちというのは私だった……。

嬉しさと切なさが心の奥底から湧き上がってきて、ポロポロと自然に涙が零れ落ちる。


「学生の頃の七海の事が知りたかったら、七海の部屋でアルバムを見ていって?ごめんなさいね、これといったお話ができなくて……」

「いえっ!……こちらこそ、ごめんなさい。七海の事、知っているようで全然知らなかったので、思い出したくない事までお話してくださって、ありがとうございます」

「いいのよ。……私たちも柚乃ちゃんと出会えてよかったわ。七海がまた、親友と呼べる子ができて、それが柚乃ちゃんであって、本当に良かったわ……」


何度も何度も頷きながら涙をこぼし、おばさんは私の手を握ってそう繰り返した。

こちらこそ七海に見つけてもらえて、声をかけてもらえて本当に嬉しかった。

七海と親友になれて、同じ趣味で盛り上がって濃い時間を過ごす事ができて、心から良かったって思っている。

私の方こそ、感謝しかない。

そう思えるからこそ、知らなかった七海の姿を追っていくたびに、原因を作った人への憎しみが強くなってくる。

もちろん、七海を救えなかった自分への怒りも同時に。